展覧会レポート
齋藤眞紀展 ~Terra dos Sonhos(夢の国)~
居心地のいい展覧会
岩崎ミュージアム(横浜市中区)で開催中の齋藤眞紀さんの展覧会を訪れた。港の見える丘公園の隣にあり、元町中華街駅からアメリカ山公園口までエレベーターで昇ると徒歩3分程度。初めて訪れる場所はワクワクする。
自然光の入る明るい展示室にはバラエティに富んだ作品が並んでいた。もともと齋藤さんは立体作品を手掛けていた経緯もあり、以前は抽象絵画も描いていた。しかし近年拝見していたのは風景画だったので、とても新鮮な気がした。
黒を基調にした大胆なストロークの絵画は大作ということもありかなりのインパクト。一見抽象的に描かれているけれど、タイトルはポルトガルの地名。つまり風景画なのだ。展示室の中ほどにはより抽象的な水彩画。カラフルでのびやかな描写は、感情のままを現したかのような印象を受けた。いずれも、齋藤さんがこれまで何度も訪れたポルトガルの記憶をもとに表出したイメージなのだ。今年のスケッチ旅行で訪れたスイスやイタリアの風景の小品は奥の壁面に展示されていた。
「抽象でも絵として成立することが実感できた」と齋藤さん。様々な技法を用いるのは、作りたいものを作るという率直な気持ちから。
会場に入った時から気になっていたのが、展示室を二分する位置にぶら下がった多数のハンガー。白と黒のハンガーが規則的に組み合わされ2つの山を作っていた。思わずこれも作品?と聞いてしまったが答えはイエスだった。厚手のアルシュ紙を使ったランプシェードも同様に作品。
アコーデオン状の間仕切り(これは作品ではない)を多数用いて、多ジャンルの作品を美しく配置した空間は、全体でひとつの作品になっていた。まるでリビングルームのような居心地の良さで、なんだか楽しくなってきた。
齋藤眞紀展 ~Terra dos Sonhos(夢の国)~
岩崎ミュージアム・ギャラリー
2018年8月8日(水)〜8月26日(日)月曜休館
9:40〜17:30(最終日〜17:00)入館料:大人300円、小中学生100円
TEL 045-623-2111
神奈川県横浜市中区山手町254
words:斉藤博美
2018-08-26 at 02:47 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0)
山田純嗣個展 絵画をめぐって —影のないー
複雑すぎる制作プロセス
山田純嗣さんの作品は、一見白っぽく、近づくと色が見え、細かな線描が見えてくる。描かれているのはどこかで見たような東西の名画。あれ?これゴーギャンの有名な大作だよね?それは「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」だった。
そしてもう1点、かなりボリュームがあるのが、2015年にサントリー美術館の久隅守景展で展示されていた国宝「夕顔棚納涼図」。それに比べると葛飾北斎の滝の絵「諸国瀧廻り」は小さい。実際の作品と同じサイズで描いてあるという。でも、山田さんは模写をしたわけではないのだ。陰影の存在から、もしかして写真?という考えも浮かんでしかり。そう思った貴方は山田作品の入口に立ったことになります!
右(16-3)WHERE DO WE COME FROM? WHAT ARE WE? WHERE ARE WE GOING?
左(16-2)夕顔棚納涼
では実際の制作方法は・・・まず平面を立体で再現する。なんで? その説明はのちほど。ともかく、絵画をジオラマのように立体にする。ジェッソ(石膏)を使っているため、表面白くなる。細かい絵ほど、立体にするのに時間がかかる。以前はボッシュの絵画をもとにしていたが、小さなモチーフが一面の描かれている絵画であったため、さぞかし時間がかかったことと察する。ともあれ、立体化したものをカメラで写真撮影する。まだ終わりではない。その写真に、作品の部分部分を細密に描いたエッチングを重ねるのだ。そのために、写真からモチーフをトレースする。そして細かく描く部分とそうでない部分のメリハリをもたせて写真の上にエッチングを施す。最後に、見る角度によって色が変わるパールペイントを、主に人物やエッチングの線がのっていない箇所に塗って完成となる。
コンセプチュアルだけれど親しみやすい作品
山田さんは自身の制作について「考えるプロセス自体が作品」と語っている。作品は3つの階層(写真・エッチング・パールペイント)から成り立っていて、写真は画面の表面から奥にある世界、というイメージ。エッチングをそこに重ねると、わずかだがインクがのってマチエールが現れ、着彩されたパールペイントが光を反射する。つまり、対象を、影で把握(写真)、線で把握(エッチング)、色で把握(パールペイント)した個々のそれらを、ひとつの画面に重ねることで、画面の表面を軸にして向こうとこっち側の3階層を作り出している。描かれたもの自体よりも制作過程を重視した非常にコンセプチュアルな作品だが、一見具象的でわかりやすいため、抵抗なく見られる。言ってしまえば見る側のレベルに応じて鑑賞できる作品というわけだ。 上の画像:(17-5)THE RED STUDIO
今回のテーマは影のない絵画
今回展示されているのは、北斎の浮世絵や土田麦僊の作品など、もともと影がない絵画と、仙厓の書といった日本美術、ゴッホやゴーギャン、マティスのような陰影表現の少ないタブローからカジミール・マレーヴィチの抽象画までと幅広い。共通点は「影がないこと」。影が描写されていない平面的な作品を立体化することで、影ができる違和感が生まれ、そこへドローイング・エッチングを重ねて表情をつけ、パールペイントで色のメリハリを出している。パールペイントは光の反射で白っぽく見える性質があるため、色が見えにくい角度が存在する。そのため「見よう」とする意志が自然に働く。近代以降の西洋絵画と日本の絵画を題材に、時代を追った絵画史のプロセスを自分の制作プロセスとして展示した同展。絵画について考える究極の展覧会といえそうだ。
不忍画廊
2017年11月10日(金)〜12月3日(日)月曜・祝日休廊
11:00〜18:30 入場無料 TEL 03-3271-3810
東京都中央区日本橋3-8-6 第二中央ビル4F
撮影:不忍画廊
words:斉藤博美
2017-12-03 at 12:33 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0)
角 文平展 植物園
延命の魔法
角さんの作品は変化し続ける。
過去には建築資材を使った重厚な作品もあった。宇宙戦艦ヤマトと江戸城を合体させた作品や、鉄塔を盆栽に、アームに乗せたミニチュアの家を巣に見立てたり。それらにはいずれも人工物の姿が見え隠れしてきた。
植物園と題した今回の展覧会は、不要となって持ち主から手放されたモノに、人工の「芽」を生やした作品ばかりが並んでいる。会場中央には熊の置物が大集合。昔の北海道土産の定番、一家にひとつはあっただろう木彫りの熊だ。手前には小さなサイズ、後方にいくほど大きくなり、最終ラインは結構大きな熊が4頭。ひとくちに木彫りの熊といっても、彫りの深さ・細かさ・雑さ、顔の凛々しさ・愛らしさ、くわえた鮭のリアルさ・・・どの熊にも違い=個性がある。熊の色も黒だけではなく茶色や赤みを帯びたものまで。古びた感じを出すために脱色した熊もあるそうだ。
ネットで只同然に売られていたという現代の不要品「熊の置物」に、角さんはたくさんの芽を生やし、彫られる前の「木」に戻してあげた。イヤゲモノとも言われる存在になってしまった熊たちに「作品化」という延命の魔法をかけたのだ。集団でこっちを向いている姿は、初々しい生命力に満ちていた。
会場には他に、ミニタンス、木製ラケット、教会の椅子、額縁などが展示されている。いずれの木製品にも、芽が生え、蘇生されている。
角 文平(かどぶんぺい)展 植物園
GALERIE SOL
2015年1月12日(月)〜1月24日(土)日曜休廊
11:00〜19:00 入場無料 TEL 03-6228-6050
東京都中央区銀座1-5-2 西勢ビル6F
words:斉藤博美
2015-01-22 at 11:54 午前 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
Palnart Poc & Molly Tippett/鈴木千恵の下駄 展
アートで着飾る
いつもは絵画が飾られている画廊の壁面を、カラフルな下駄が埋め尽くしていた。下駄職人の鈴木千恵さんによる展覧会。モダンな模様、愛らしい動物、花札などをモチーフに全て異なる絵柄が描いてある。左右でひとつの絵になっていたり、異なる動物が対照的に描かれていたりとバラエティーに富んでいる。こんなに楽しい下駄は見たことがない。かかとの高さ、足の幅などによって「右近」「反小町」「あと丸」などいくつか下駄の種類があり、好きな形、柄、鼻緒をチョイスして自分だけの下駄をカスタマイズできる。ズバリ…浴衣よりも主役になれる下駄だ。
壁一面にカラフルな下駄!(ギャラリーアートもりもと)
2014-07-18 at 03:49 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
糸賀英恵展
女性の身体×花ビラ
いい出会いは予期せずやってくる。相手が作品だとしても。
ギャラリーの中で、ひとつは床に横たわり、もうひとつは自立していた。渋く輝く金属製で、叩いた跡があるから鍛金による作品だろう。それにしても軽やかだ。作品が醸し出す空気に興奮しながら右側の物体に近づく。動物の肢体らしき滑らかな曲線、オモテとウラの行方を見極められない複雑なひねり、メビウスの輪どころではない。立ち位置を変えると、あら不思議。交差する二人の女性に見えてきた。
「相思華」ふたりの女性がすれ違う瞬間!
2013-11-29 at 12:51 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
秘境を求めて
現代の洞窟で芸術の起源を模索
6作家によるサイトスペシフィックな展覧会。倉庫をリノベーションせず、ほぼそのままのカタチで使用している。
仁木智之さんのカプセルは体験型の作品だ。大人ひとりが横になれる程度のスペースに足を踏み入れる。底には50インチの巨大モニターが埋め込まれていて、そこに腹這いになるとフタを閉じられる。カプセルの上方には天空に向かってカメラが仕込んであり、モニターにはリアルタイムに会場の天井が映し出されている。モニターと顔が近いため映像に入り込めるような感覚を覚える。突然、景色が動き始めた。と同時にガガガと振動がしてカプセル自体も動いていた。
2013-11-17 at 04:55 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
ハッピー・ピョンヤン2010
リアルな記録、笑顔の行方
いま銀座で、かなり珍しい展覧会が開催されている。
企画者は荒巻正行さんという学者。もともと東アジア学を専攻し、中国の文化大革命を研究中に出合った北朝鮮に関心を持ち、発展の過程を映像で記録していく使命感を感じたという。
(写真)手前の作品は刺繍でできている。6人の共作だそうだ。
1997年から頻繁に北朝鮮へ足を運び、記録した映像は1000時間にも及ぶ。北朝鮮に入ると必ずガイドが着くそうだ。当然費用は訪問者の負担。ガイドとはいうものの体裁のいい監視員であり、撮影にはうるさい。荒巻さんはジャーナリストではないため、ガイドの言うことには従い無理強いしない。それにより信頼関係ができ、結果として撮影内容にも融通がきくようになったらしい。北朝鮮は、閉ざされた国、扱いにくい国という印象があるが、国民レベルならば人間関係の掟は変わらないのだ。10年が経った時、ミュージシャンとタッグを組んで北朝鮮の子どもたちにロックを教え、曲までプロデュースした。しかしあくまで目的はその一連の記録であることに変わりない。
2013-10-23 at 07:44 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
上根拓馬展
饒舌なフィギュア
「画廊からの発言 新世代への視点」は今年14回目となるロングランの企画。約10軒のギャラリーが参加し、毎年この時期に開催されてきた。今年は12画廊が参加している。8軒目に訪れたGALERIE SOLの上根拓馬展は、画廊に入った途端に感じるものがあった。なにやらすごい仕事をしてそうだ…と。
2013-08-02 at 07:38 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
木村宗平展
電気の筆で描かれた引き算の描写
会場には10点ほどの紙片が吊り下げられ、それに重なるように映像が投影されていた。なんとなく眺めていたが、1ループした頃にハタとに気づいた。そうか、これは電車の窓からの風景なのだと。不定形で何を意味しているのか謎だった紙片が、急に存在感を増し、車窓へと一変する。左右に駆け抜けていく夜景と一体化し、車内から外を眺める視点と外から電車を眺める視点がシンクロする。映像はメディア・アーティスト金箱淳一さんの作品。たまたまコラボレーションの時間帯だったので見ることができた(毎日17時から投影)。
映像とコラボレーション中の「終電の灯」
2013-04-10 at 07:11 午前 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
松本秋則展 Sound Scenes
音と緑と浮遊感
会場に入って一番最初に目がいったのは、失礼ながら多数並んだ作品ではなく、その奥に見えた窓の外の緑だった。そこからUターンするように視線を走らせる。無数のモビールや飛行機のような形のオブジェが吊り下がっている。床置きの作品もある。それらは四角い緑と共存してすがすがしい空気を部屋に充満させている。六本木に緑がこんなにあるんだ!という驚きと、時おり動いて鳴り出す楽器の素朴な音色がなんとも気持ちをなごませる。
2011-05-15 at 01:04 午後 in 展覧会レポート | Permalink | コメント (2) | トラックバック(0)