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山田純嗣個展 絵画をめぐって —影のないー
複雑すぎる制作プロセス
山田純嗣さんの作品は、一見白っぽく、近づくと色が見え、細かな線描が見えてくる。描かれているのはどこかで見たような東西の名画。あれ?これゴーギャンの有名な大作だよね?それは「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」だった。
そしてもう1点、かなりボリュームがあるのが、2015年にサントリー美術館の久隅守景展で展示されていた国宝「夕顔棚納涼図」。それに比べると葛飾北斎の滝の絵「諸国瀧廻り」は小さい。実際の作品と同じサイズで描いてあるという。でも、山田さんは模写をしたわけではないのだ。陰影の存在から、もしかして写真?という考えも浮かんでしかり。そう思った貴方は山田作品の入口に立ったことになります!
右(16-3)WHERE DO WE COME FROM? WHAT ARE WE? WHERE ARE WE GOING?
左(16-2)夕顔棚納涼
では実際の制作方法は・・・まず平面を立体で再現する。なんで? その説明はのちほど。ともかく、絵画をジオラマのように立体にする。ジェッソ(石膏)を使っているため、表面白くなる。細かい絵ほど、立体にするのに時間がかかる。以前はボッシュの絵画をもとにしていたが、小さなモチーフが一面の描かれている絵画であったため、さぞかし時間がかかったことと察する。ともあれ、立体化したものをカメラで写真撮影する。まだ終わりではない。その写真に、作品の部分部分を細密に描いたエッチングを重ねるのだ。そのために、写真からモチーフをトレースする。そして細かく描く部分とそうでない部分のメリハリをもたせて写真の上にエッチングを施す。最後に、見る角度によって色が変わるパールペイントを、主に人物やエッチングの線がのっていない箇所に塗って完成となる。
コンセプチュアルだけれど親しみやすい作品
山田さんは自身の制作について「考えるプロセス自体が作品」と語っている。作品は3つの階層(写真・エッチング・パールペイント)から成り立っていて、写真は画面の表面から奥にある世界、というイメージ。エッチングをそこに重ねると、わずかだがインクがのってマチエールが現れ、着彩されたパールペイントが光を反射する。つまり、対象を、影で把握(写真)、線で把握(エッチング)、色で把握(パールペイント)した個々のそれらを、ひとつの画面に重ねることで、画面の表面を軸にして向こうとこっち側の3階層を作り出している。描かれたもの自体よりも制作過程を重視した非常にコンセプチュアルな作品だが、一見具象的でわかりやすいため、抵抗なく見られる。言ってしまえば見る側のレベルに応じて鑑賞できる作品というわけだ。 上の画像:(17-5)THE RED STUDIO
今回のテーマは影のない絵画
今回展示されているのは、北斎の浮世絵や土田麦僊の作品など、もともと影がない絵画と、仙厓の書といった日本美術、ゴッホやゴーギャン、マティスのような陰影表現の少ないタブローからカジミール・マレーヴィチの抽象画までと幅広い。共通点は「影がないこと」。影が描写されていない平面的な作品を立体化することで、影ができる違和感が生まれ、そこへドローイング・エッチングを重ねて表情をつけ、パールペイントで色のメリハリを出している。パールペイントは光の反射で白っぽく見える性質があるため、色が見えにくい角度が存在する。そのため「見よう」とする意志が自然に働く。近代以降の西洋絵画と日本の絵画を題材に、時代を追った絵画史のプロセスを自分の制作プロセスとして展示した同展。絵画について考える究極の展覧会といえそうだ。
不忍画廊
2017年11月10日(金)〜12月3日(日)月曜・祝日休廊
11:00〜18:30 入場無料 TEL 03-3271-3810
東京都中央区日本橋3-8-6 第二中央ビル4F
撮影:不忍画廊
words:斉藤博美