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秘境を求めて
現代の洞窟で芸術の起源を模索
6作家によるサイトスペシフィックな展覧会。倉庫をリノベーションせず、ほぼそのままのカタチで使用している。
仁木智之さんのカプセルは体験型の作品だ。大人ひとりが横になれる程度のスペースに足を踏み入れる。底には50インチの巨大モニターが埋め込まれていて、そこに腹這いになるとフタを閉じられる。カプセルの上方には天空に向かってカメラが仕込んであり、モニターにはリアルタイムに会場の天井が映し出されている。モニターと顔が近いため映像に入り込めるような感覚を覚える。突然、景色が動き始めた。と同時にガガガと振動がしてカプセル自体も動いていた。
動かしているのはアーティストにちがいない。前後左右に絶え間なく動き、めざましく変わるモニターの景色の上で、ただ揺さぶられている自分の姿を客 観的に考えると、急に可笑しさがこみ上げてきた。私は何をしているのだろう? 数分くらい経っただろうか、動きが止まり、フタが開かれた。いとも簡単に現 実に戻ってしまうのは味気ないが、カプセルを外から見ているだけでは想像もできない、なんともいえない時間を体験できた。日頃より、乗れる作品を制作して いるという仁木さんだが、形態もコンセプトも非常に興味深い作品だった。
仁木智之「However,I'll keep watching the thin air.(けれども私は虚空を見続けるだろう)」
吹き抜けの2階部分は、回廊状に幅広い足場のような空間があり、そこにも作品があった。
何枚も繋がったままプリントアウトされて帯状になった写真が、無造作に壁や床を侵食している。澤田育久さんのコーナーだ。膨大な点数の中から選び抜いた写真を額装して展示するのとは真逆の意図? 被写体は無人の建物ばかり。それらを集積させて見せることで、被写体自体の要素は希薄になる。床にも写真の帯は広がり、踏まないように導線を探すことになるが、時間の経過による変容や風化を厭わないようだ。
澤田育久「closed cercuit」
清岡正彦さんはフレームによって囲われた建築的空間をつくり出していた。要素は光、影、水滴、苔、土、廃墟、椅子。 これまで清岡さんが使ってきた素材で、太古の昔に洞窟で人類が芸術を体現してきた状況(心、体、環境)を模型化したそうだ。清岡さんは、この展覧会の企画者でもある。長年の制作活動の中で模索した結果、自らで発表の場を構え、展覧会を行っていく道を選んだ。
清岡正彦「Architectural Cave」
同展は、「秘境」のように知る人ぞ知る作品にスポットを当てたもの。心の領域に入りこんだアーティストからのメッセージが、見る人に伝わるだろうか?というチャレンジなのである。このスペースはその検証のために存在する。会場は都心からかなり離れているので、訪れるにはそれなりに時間もかかる。知らない土地で目的の場所を探す体験も、展覧会の演出効果を発揮しているのかもしれない。
出品作家は清岡正彦、澤田育久、仁木智之、松下誠子、カリン・ピサリコヴァ、サム・ストッカー
秘境を求めて
洞窟現代
2013年10月19日(土)〜 11月17日(日) 火曜定休
11:30 〜 19:30 入場無料
神奈川県相模原市中央区下九沢61-5
words:斉藤博美
2013-11-17 at 04:55 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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