Heat Waves in a Swamp: The Paintings of Charles Burchfield

観察の人

NYから塩崎浩子さんのレポートです。

ホイットニー美術館で開催されている「Heat Waves in a Swamp: The Paintings of Charles Burchfield」は、アーティスト、ロバート・ゴーバーの企画による、チャールズ・バ−チフィ−ルド（Charles Burchfield）の個展である。

《The Night Wind》 1918. Watercolor, gouache, and pencil on paper, 211⁄2 x 217⁄8 in. (54.4 x 55.5 cm). The Museum of Modern Art, New York. Gift of A. Conger Goodyear, 1960

バ−チフィ−ルドのドローイングを持っていたゴーバーの自宅にアメリカのHammer Museumのディレクターが夕食に訪れたことから始まったというこの企画、アウトサイダーアートではないものの、あまり知られることのなかったバ−チフィ−ルドの、水彩作品を中心にドローイング、油彩、日記、スケッチ、スクラップや手紙など100点を超す作品や資料が展示されている。かのMoMAで1930年に個展が開かれているにもかかわらず（MoMAで初めての一人のアーティストの展覧会）、彼の仕事はこれまで包括的に評価、紹介されてはいなかった。ゴーバーは展覧会カタログに丁寧な解説を寄稿しており、彼の企画であることが、今回より多くの観客を集めているのは間違いないだろう。

チャールズ・バ−チフィ−ルド（1893-1967、アメリカ・オハイオ州生まれ）はナイアガラの滝のすぐ近くに居を構えながら、あくまで自宅の庭、窓から見える景色、森の中などの身近な自然を描き続けた。「バ−チフィ−ルドは沼地や湿地が大好きだった。彼はあらゆる自然を愛し、若い頃、アーティストになるかネイチャーライターになるかで真剣に悩んだ」（ゴーバーがカタログに寄せた文章より）とあるように、彼は日々自然をつぶさに観察し、受容し、紙に描き落とした。まるで生物学者のごとく、毎日欠かさず日記をつけ、展覧会のタイトルにあるとおり沼地や湿地（swamp）に立って観察やスケッチを続けていたという。小鳥や蝶の羽ばたき、せみの鳴く声、たんぽぽや木の葉が風に揺れるさま、森のこだま、沢を流れる水、沼に流れる生暖かい空気・・・彼が見たもの、そして目に見えない音や空気のふるえまでもが画面に織り込まれ、調和を作っている。

《Glory of Spring (Radiant Spring)》 1950. Watercolor on paper, 401⁄8 x 293⁄4 in. (101.6 x 73.7 cm). Parrish Art Museum, Southampton, New York. Gift of Mr. and Mrs. Alfred Corning Clark, 1959.

展示は年代別に分けられているものの、中には制作時期が20〜30年におよぶ作品もあって、彼が同じ風景を時折、あるいは毎年同じ時期に眺めては描き足していったことが想像できる。自然界の時間の流れにおいては20〜30年など一瞬にしか過ぎず、描くにはそれだけの年月が必要だったのかも知れない。特に晩年の作品群では、自然への崇拝の気持ちからか画面は神々しさを帯びるようになる。私達の目にはありふれたものであっても、彼にとっては常に変化し飽きることのない、驚きや美しさや魔力や啓示に満ちた、極めて個人的な風景だったに違いない。 

《The Insect Chorus》 1917. Opaque and transparent watercolor with ink, graphite, and crayon on off-white paper, 20 x 157⁄8 in. (50.8 x 38.1 cm). Munson-Williams-Proctor Arts Institute, Museum of Art, Utica, New York. Edward W. Root Bequest, 1957.

Words: 塩崎浩子

★ホイットニー美術館「Heat Waves in a Swamp: The Paintings of Charles Burchfield」展は10月17日まで開催