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津田直「漕ぎだし」

Photo_1新書サイズのハンディな写真集「近づく」(HIROMI YOSHII発行)も好評の写真家・津田直。最近では「STUDIO VOICE 06年2月号 特集[写真の基礎知識]」の表紙も飾った。そんな津田の個展「漕ぎだし」が主水書房(大阪府堺市)で会期延長して開催中である。展示された作品のなかの静かな風景は、包み込むような穏やかな時間と緊張感という両極のものを持ち合わせている。
(2006年1月29日(日)まで)

門から敷き石を踏み進み、瀟洒な日本家屋の玄関の引き戸を開けるとまず正面に表具をほどこした波立つ湖面の写真が目に飛び込んでくる。玄関の左手には四畳半ほどのブックショップ「主水書房」。ショップのほうも気になりながら、「順路」に従いゆっくり作品を観る。玄関脇にある小部屋に掛けられた作品は空を飛ぶ鳥が羽ばたく様子がプリントされた印画紙が薄い和紙で覆われている。廊下から襖を開けて和室へ入ると目の前に山水画のような世界が障子に浮かび上がっている。8枚の障子には、木々が並ぶ風景が和紙にプリントされ、パノラマとなって広がっている。建具が取り払われたつながった二つの部屋には、向かい合わせに形体の違う床の間がある。月が夜の湖面を薄っすらと輝かせる2枚の写真は、同じネガフォルムから焼いたものという。その真実を聞くまでは同じ場所から撮った夜と昼の風景なのかと思っていた。庭に出て、飛び石をたどってゆくと茶室があって、躙り口から入ると、床の間に掛かった作品と遭遇。湖の浅瀬に生えた植物を撮った写真は、湖面に映り込んだ部分の構図(トリミング)が心憎い。広間とは違う、小宇宙にしばしくつろぐ。
 湖北と呼ばれる琵琶湖の北の地域を津田とともに、撮影旅行に出かけたという主水書房オーナーの片桐さんから聞くハートウォーミングなエピソードが、さらに想像をふくらませ、すっかり湖北ロケを頭と心のなかで追体験。
 津田直の作品は、これまでホワイトキューブの画廊空間のなかでしか観たことがなかった。無機質な場所での展示もいいが、ロケ地で入手したという苔のむした古い木製のオールをも展示空間に持ち込んだ物語性に満ちた展示もまた格別だ。そして、津田の作品のもつ時間と空間の問題をいつもとは違ったかたちで展開させ、空間すべてがひとつの作品となっていた。この新たな試みもひとつの「漕ぎだし」なのかもしれない。

2005年11月23日(水)-2006年1月29日(日)
 (1月10日以降は月〜木曜日は休み)
*金・土・日のみ[OPEN] 11:00-20:00
主水書房
〒590-0041 大阪府堺市陵西通2-15
TEL.072-227-7980
最寄り駅:南海電車高野線「堺東」駅、JR「三国ヶ丘」駅より徒歩15分
入場無料

words:原久子

遊覧アーカイブ
2003年

2006-01-16 at 11:02 午前 in 展覧会レポート | Permalink

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