« ミュージアムリンク・パス | メイン | 日韓友情年2005」特別共同展覧会“パブリックリー・スピーキング”  »

やなぎみわ展—無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語

yanagi_flyer_web02グリム童話やガルシア=マルケスの短編小説『エレンディラ』など、「少女」と「老女」が登場する物語をベースに、CGを使わずにモノクローム写真によって寓話の世界をつくり出している。昨年の丸亀弦一郎現代美術館(香川)で発表された作品に、新作写真とビデオを加えた展示構成。歩き見ながら、原美術館の洋館建築の現実空間が、時々するりと虚構の世界にすり替わっていた。天蓋をくぐると、老女の顔をした少女が砂遊びに興じるモノクロ映像「砂少女」が流れている。物語をのぞき見るような、あるいは後に登場する「砂女」に導かれ、物語の“腹“に入っていくよう。
 

知り合いのアマチュアの子どもたちを使いながら、虚構性の強い作品に仕上がっている。それでいて、特殊メイクのマスクはマスクだとわからせるようであったり、2階の映像作品では、椅子の上でふんばる少女の足とか、虚構と現実の混じり合うディテールに見入ってしまう。「映画よりおもしろい現代美術の映像作品はなかなかない」と言われてきたが、これはかなり引き込まれた。
 
動きのある映像の後に静止写真という交互の構成によって、穴のなかの世界で立ち止まりながら進むような緊張感を持続させる。だからこそ最後の映像作品「砂女」のラストシーンで解放された気持ちになるのだろう。2回続けて見ると、英語の字幕と日本語のナレーションが入れ替わるのがわかる。

老い(死)への畏怖、若さ(生)への嫉妬。肉体は取り戻せないが老女の解放された心、少女がこれから身につけていくであろう複雑な性への感情、ふるまい。同姓故に、入れ子になる複数の感情や駆け引きがスリリングだ。また、1本の時間軸だけではなく、たとえば一人の女性のなかでも、現在の年齢にのみならず、少女の心も老女の心も行き来しているともいえる。男性が見るとちょっと怖いと思うのだろうか。これが男同士だったら、あるいは異性の関係だったらまた異なるのだろうか。この年齢になってようやく、なんだかやっかいだと思っていた女性性が楽しく思えるときもある。(かといって男性になりたいわけでもないんだけど)

理想の祖母像を演出する『My Grandmothers』シリーズでは、モデルとなる女性の、時代に影響された価値観や願望などが作品を限定してしまっているように感じるときもあり、それはそれで計らずも現代を映し出していると思うのだが、個人的には、今回の少女が演じた作品のほうがより時代にとらわれない、また遊びに行きたくなる魅力あるものに思われた。


2005年8月13日(土)〜11月6日(日)
原美術館
品川駅高輪口より徒歩15分
11:00〜17:00(水曜は20:00まで)
月曜、9/20、10/11(9/19と10/10は開館)
一般1000円、大高700円、中小500円
TEL.03-3445-0651

words:白坂ゆり

*遊覧アーカイブ
2001年個展
2002年 未来予想図〜私の人生☆劇場

2005-08-20 at 12:59 午前 in 展覧会レポート | Permalink

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a0120a853c3af970b01287755f85d970c

Listed below are links to weblogs that reference やなぎみわ展—無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語:

» スクーリングで滞在中に from 望天館の昼と夜
先週、スクーリングで京都に滞在中に、またまたやってしまいました... いや、怪し [続きを読む]

トラックバック送信日 2005/08/30 0:19:29

» やなぎみわ展「無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語」 from 本の装丁・ウェブデザイン、死ぬまで作るか?!渋谷ウインバレー
やなぎみわの展覧会が原ミュージアムで開催中です。初めてやなぎみわの写真を見たとき、血も凍るような不気味な時間が知らないうちにすぎていったことを覚えています。何の理由かはわからない不気味さ。 人気ブログランキング参加中 この人はどんな経験を経て、こういう写真を撮るに至ることになったのか、調べてみたくなりました。 1967年生まれ、京都市立芸術大学院美術研究科修了。 いままで、とにかく精力的に作品を撮影し、展覧会を開催しています。 1988年から始まって、1999年には、VOCA展’99 ... [続きを読む]

トラックバック送信日 2005/10/02 9:00:47

» やなぎみわ「 無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語 」という入口 from 若山和央の頭の部屋
衝撃である。 どうも なんだか あのテント女の胎内に引きずり込まれてしまい 心にも 安心と恐怖が同居してるような暗闇、か あっちの世界と行き来出来る洞窟の入口が、ぽっかり出来ちゃったようでもある。 僕には、彼女が映像を捧げたガルシアマルケスの長い魔術的な文章より たった一枚のテント女の写真の方がもっと衝撃が深く、見るものへの強い変成力があるように感じた。 去年見たかったのに遠くで(四国丸亀の美術館)行けなかった「寓話シリーズ」、これに 相当数付け加えらているらしく、これはとても嬉しいこ... [続きを読む]

トラックバック送信日 2005/10/08 17:07:13

» VIVA!有給休暇 from orange lounge again
本日、有給休暇フル活用 楽しかった 品川御殿山の美術館で、 やなぎみわ の作品展を観る 童話をモチーフにしたモノクロプリントの写真 女の子の肌の瑞々しさと老女の対比 残酷にも観受けられるのに、少しドキドキしながらずっと観ていたいような気分で眺める 「砂女」のショートムービー、素敵だった ワタシも、「砂女」に会ってみたい・・・(ちょっとコワイけど)... [続きを読む]

トラックバック送信日 2005/10/15 2:32:53

» SUNAONNA from その女、ワガママにつき
品川駅から徒歩15分。 原美術館へいってきました。 ■やなぎみわ 無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語 2005/8/13〜2005/11/06 住宅街にある美術館。 白い外装に大きな木。 中庭もあり、カフェもある。 かなり好みの場所でした。 今回のやなぎみわさ...... [続きを読む]

トラックバック送信日 2005/10/15 14:38:05

コメント

はじめまして。
私のブログで紹介していた、やなぎみわ展の記事にトラックバックされていたので、こちらにきました。
私は特別、美術を勉強したわけではなく、感覚的に現代アートなどを楽しんでいるだけなので、ここまでしっかりとしたレポートを見ると、非常に参考になります♪
やなぎみわ展はまだ見に行ってないので、近々行ってみようと思います(^^;

投稿情報: BIGFIELD | 2005/08/21 16:27:53

コメントありがとうございます!
TBだけしてきちゃってごめんなさい。
やなぎみわ展、検索したけどまだあまり反響が出てないみたい(会期長いからかな。いま外に出るの暑いしね)。
私も、プロのライターとして仕事してますけど、美大で教育を受けたとかではありません。
違う意見や感想がいろいろ出るのもアートのいいところだと思うので、また見て何か書いたら、よかったらお知らせくださ〜い。

投稿情報: shirasaka | 2005/08/23 2:01:56

前知識なしのやなぎみわ展でした。ふらっと訪ねる美術館でのひとときというのもいいものです。
美術に興味のない息子も、2階の映像には見入っていました。惹きつけたものは何だったのでしょうか。あえて、感想はききませんでしたが・・・

投稿情報: archer | 2005/08/24 0:20:52

こんにちは。
やなぎみわ展の記事をTBさせて頂きました。
首都圏では初めての個展なんですよね。
「砂女」。これからも何度も氏の展覧会に登場しそうなの存在ですね。
開催期間が長いみたいなので、もう一度行ってみたいと思います。

投稿情報: もりま | 2005/08/30 0:29:17

もりまさん、コメントありがとうございます。
砂女、いいですよねぇ。
この感じ、いま初台の東京オペラシティアートギャラリーの2階常設展で開催中の難波田史男(特にドローイング)にも通じる気がします。
難波田史男もおすすめです。難波田龍起の息子です。

投稿情報: shirasaka | 2005/08/30 10:45:57

造芸大通信生ですが、実はアートには疎い普通の会社員です。
なので、こちらを「遊覧」して勉強させて頂きます。
難波田史男氏の展覧会も機会があれば、観に行きたいと思います。
事後連絡ですが、こちらとリンクさせて頂きました。
よろしくお願いします。

投稿情報: もりま | 2005/08/30 20:04:09

はじめまして。
文章が上手ですね。

私もこちらの展覧会を観てきました。
90年代からちょこちょこと、やなぎさんの活動を見て来たので、懐かしく感じました。
ホントにつたない文章なので、お恥ずかしいですが、関連記事を書いたので、興味あればご覧ください。。
http://artworld.exblog.jp/

初台のオペラシティアートギャラリー難波田史男展にも興味があるのですが、なかなか行けません。
今月末からの横浜トリエンナーレはぜひ行こうと思っています。

長々とすみません(>_<)

投稿情報: azumi | 2005/09/03 15:32:48

コメントありがとうございます。
そんな謙遜なさらず、どうぞまたコメントやTBしてください。
社会的に見た、年齢を重ねることへのおそれや希望ではなくて、人間誰しも生まれた以上、老いには向かっているわけで、そのループが今回はよく出ていたように思いました。
やなぎさんは根源的なことがよくわかっていて、どう表現するかをずっとあれこれやっているような気がします。

横浜トリエンナーレもあまり全貌が見えてこないかもしれませんが、取材で見ていると、ポジティブでおもしろいです。少しずつレポート上げられたらと思いますので、お楽しみに!

投稿情報: shirasaka | 2005/09/04 11:29:14

コメントありがとうございます(^ ^)
shirasakaさんのコメント、すごく勉強になります。

『根源的なことがよくわかっていて・・・』は同感です。
作家さんにとって大事なことのひとつは、言いたいことをいかに表現するかということですものね。。
表現法を模索しているやなぎみわさんの今後が楽しみですね。

横浜トリエンナーレですが、サイト(http://www.yokohama2005.jp/jp/) を見ても、素っ気なくて、期待感を持ちづらい感じです。
せっかく大規模な美術イベントですから、美術ファンを増やすためにも、もう少し盛り上がってくれればと思うのですが~。
shirasakaさんは内側も覗くことができていいですね♪ 外側と内側のレポートを、心待ちにしています!
もうすぐスタートですし、現場はバタバタしてるでしょうね。

投稿情報: azumi | 2005/09/04 14:15:45

トラックバックありがとうございました。
展覧会、いろいろ行かれているのですね。
今後も参考にさせていただきます。

投稿情報: ウインバレー | 2005/10/03 8:26:23

はじめまして、一昨日原美術館に行き、自分のブログで文章書いて、他の人は何を書いてるんだろうと検索。最初に来たブログで、わ、なるほど、と、面白く思い、これまた初めてのTBさせていただきました。僕は造形の方もやるのですが、一度shirasakaさんに評していただきたいな なんて思いました。

投稿情報: SOWAKA | 2005/10/08 17:22:09

ごめんなさい上の僕のコメントにリンクされてるURLはブログじゃなくホームページです。ここに行っていただいてもいいですが(奥で繋がってます)ブログはこのコメントにリンクしました。

投稿情報: sowaka | 2005/10/08 18:40:06

>sowakaさん
TBお返しするの遅くなりました。いろいろな意見が集まっておもしろいですね。
やっぱりいい展覧会、おもしろい展覧会には、素直に反響が付くんだなあ。
sowakaさんのように「見てしまった…」が、アートから足が抜けなくなる魔力だと思うんですよね。参加型も楽しいけど、できればそうやってアートにハマっていく方が引力が強いんじゃないかと思うんですよ。

投稿情報: shirasaka | 2005/10/19 4:54:46