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マシュー・バーニー:拘束のドローイング展
映画『クレマスター』シリーズでも知られるアメリカの作家マシュー・バーニー。今回はパートナーのビョークも出演して、日本の捕鯨船を舞台に、プロの俳優ではない人々を起用して撮影した新作映画と彫刻を発表している。バーニーの作品には「拘束のドローイング」というシリーズがあり、これが9作目に当たる。これまでのものもまとめて見られたのがまずうれしかった。
バーニーは自由を求めながらも完全野放し状態ではなく、束縛を必要としたり、そこから逃れようとするジレンマから、何かになるかならないかギリギリのものを生み出そうとする。人は(なんだこれは?)と思うかもしれないが、たぶん彼は「美しい」と思ったところでOKを出すのだろう。
学生時代にフットボール選手でもあったように、バーニーはアスリートだ。筋肉に負荷(拘束)をかけてトレーニングすると、いったん筋肉細胞は痩せるが、そのあと増殖し肥大する。自作のマシンに拘束されて描く彼は、ストイックなのかマゾなのか、敬服の笑みで映像に見入ってしまった。しかし、今回会場で行ったトランポリンを使った「DR10」と美術館の壁を登る(!)ロッククライミングでできた「DR11」のドローイングは、正直どうかなあ。生で見ていたら感想が違ってきそうではあるけれども。半獣半人の2人がレスリングのように絡み合いながら角で描く「DR7」までの方が、同様のあっけなさでも私にはおもしろかった。
映画は、捕鯨と茶道をモチーフに、日本文化をリサーチしたうえで(かなり)独自の解釈を重ねてファンタジーをつくりあげていた。トークでは、伊勢神宮の遷宮をはじめ、古来よりの日本文化や慣習をリスペクトの上で調べたことが伝わった。漁船を舞台に、マシューとビョーク扮する「西洋からの客人」の結婚式が執り行われる。これが、他者や異文化の出会いを意味している。虚構の設定だが、現実のかかあ天下な感じがほの見えてちょっと可笑しい。
二人が互いの肉体を解体するシーン以外、『クレマスター』の不穏さはほとんどない。猟奇的ともいえる愛だけど、お互いの輪郭がなくなるくらい他者と交わることと思えば官能的だ。
また、捕鯨といえど政治的な扱いではなく、バーニーが彫刻の素材としている樹脂と鯨の油脂とがつながり、今回の物語も生まれている。フィールドエンブレムの鋳型をはずし、流れ落ちながら留まった巨大彫刻が、映画のなかでも展覧会場でも要だ。
映画は2時間30分だが、バーニーにとっては彫刻をつくるためのこれがドローイング(!?)なので、両方見たほうがいい。『クレマスター』でアブノーマルと受け取った人もいるかもしれないが、やはりもともと「健康な変態」だった。しかもビョークの愛によって変態が受け入れられちゃったので、よけいに希望的なのだった。
2005年7月2日(土)〜8月25日(木)
金沢21世紀美術館
10:00〜18:00(金土曜は20:00まで) 無休
展覧会:一般1000円、大学800円、高中小400円(65歳以上800円)
映画:一般1000円、大学800円、高中小400円(65歳以上800円)
前売:一般800円、大学600円、高中小300円(チケットぴあでも発売)
TEL.076-220-2800
*8/14まで「人体の不思議展」も開催。
*発売中の『美術手帖』8月号で、滝本誠×小谷元彦×ヴィヴィアン佐藤「クレマスター」対談をまとめました。他の雑誌にはない的確な指摘が、三人三様の夜なべのおしゃべりのなかで展開されました。マシューよりもっとアンダーグラウンドな作家も紹介されています。必読!
words:白坂ゆり
金沢のおすすめの「食」などについてはあさぴーさんのブログが便利です。
あさぴーのおいしい独り言
2005-07-29 at 03:47 午前 in 展覧会レポート | Permalink
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7/6のブログにも書きましたが、金沢21世紀美術館は今や世界中から高い評価を受けていて、本当におすすめします!
今月の「SPUR9月号」の27ページにも記載されていますが、
あのビョークの恋人マシュー・バーニーの「マシュー・バーニー:拘束のドローイング」が8/25... [続きを読む]
トラックバック送信日 2005/07/31 16:18:30
» マシュー・バーニー from A
THE CREMASTER CYCLE
Matthew Barney, Nancy Spector
★人の意識が遠のいてゆく瞬間、人が眠りに落ちる瞬間ってのはおもしろいなあと、僕の目の前の人がうつらうつらと眠りに落ちる瞬間を電車の中で見ながら思った。なんて無防備なんだろうか。それが人間の強さかもしれないし、弱さなのかもしれない。
★今月号のSTUDIO VOICE 8月号の特集は現代美術アーティストのマシュー・バーニーですね!わたくし、この人の作品が大好きでありまして・・・。... [続きを読む]
トラックバック送信日 2005/07/31 22:20:25
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拘束のドローイング展 今日から開催です(8/25まで)。 今日は関連イベントも盛 [続きを読む]
トラックバック送信日 2005/08/01 0:46:04
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トラックバック送信日 2005/08/01 8:28:13
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行ってきました金沢21世紀美術館。はじめての金沢だったんだけど暑い!北陸特有のフェーン現象とやらでとにかく暑い。とにかく涼しい美術館へと直行すると、美術館の中にはたくさんの人が!わざわざ平日狙ったのに混んでる。。やっぱり夏休みだから仕方無いか。。。と思ってよく見るその行列を成しているのはご年配の方か家族連れ。マシュー・バーニーの客層にしちゃスゲェな。とか思って先頭を見てみると、そこは別室でやってる 『人体の不思議展』の入口でした。 思いっきり反対側のエントランスのほうが、『拘束のドローイング』の展示... [続きを読む]
トラックバック送信日 2005/08/06 23:09:00
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トラックバック送信日 2005/08/09 14:55:12
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トラックバック送信日 2005/08/12 10:35:40
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マシュー・バーニーはビヨーク... [続きを読む]
トラックバック送信日 2005/08/25 3:13:23
コメント
こんにちは。
ブログでの紹介ありがとうございます。
マッシュ・バーニー展、初日は開設も少なく、本当に???でした。 いまでは、子供でもわかるような解説が書かれているようですね。
これからもよろしくお願いします。
投稿情報: あさぴー | 2005/08/01 8:31:57
そう、???ですよねー。
???でも淡々とした長尺な映画に観客も拘束されるわけで、サドですね。
しかし、吉田戦車の海モノか!?とちょっとくすっとしながら見てしまいました。
(いや、まちがった見方ですが、ははは)
それでも映画を見てから展示室を見た方がつながりやすいと思います。
しかし茶道具といい、船貸し切りロケといい、インスタレーションといいお金かけてつくられている展覧会を久々に見たというカンジでした。
アメリカのギャラリーがかなり資本を投じているようです。ウォーホルみたいなスターになるだろうというのがもっぱらの評価です。
スターだからあれでいいか、スターだからこそかは感想の分かれるところかと思います。
昼頃本人を見ましたが、オクラホマという田舎出身の青年が「充実してるなあ」という感じでさわやかに出て来た姿には、なんか周囲が納得してしまうチャーミングさがありました。作品でも人でもチャームって分かれ目だなあと最近思います。
投稿情報: shirasaka | 2005/08/01 14:11:25
こんにちわ!TBさせていただきました!
自分は映画が大好きで良く観るほうなんですけど、今回の映画パートの「9」は、観たときはあまりにも淡々とした内容で狐につままれたような感じだったんですが、見終わった後もいい意味で頭に浮かんでしまう不思議な作品でした。
茶室というのは狭い入り口からかがむように入室する一種現実空間とは別世界を構築した狭い空間だと思うんですけど、元々狭くるしい「船」の中にさらに狭い茶室があって「一期一会」の茶会をする!って物凄いイマジネーションですよね。
日本文化の独自解釈はまぁおいといてですが;;
「クレマスター」は未見ですけど、観る機会があったら
見てみたいと思ってます。もっとショッキングな内容だと
聞いているのでちょっと怖い気持ちもありますけど^^
投稿情報: kazupon | 2005/08/10 7:34:57
>KAZPONさん
コメントありがとうございます。丁寧なレビューで参考になります。
そうですね。捕鯨船は巨大で、そこにできる彫刻も巨大だから、狭い茶室と対比させているのかもしれませんね。船がグラッと揺れて傾き、2人の距離感が変わるとか、考えてみるとベタなんですけど、やっぱうまいんですよね。
「クレマスター」は世界中で期間・劇場限定でしか上映できない映画で、ソフト化も禁止されています。そのかわり、メイキングDVD『The Body as Matrix』があり、これを見るとバーニーの考えもわかります。デヴィッド・リンチに近い感じもあり、ビジュアルはショッキングですけど美しいし、ゴージャスでファンタジックなシーンがDVDでも見られますよ。
http://www.ufer.co.jp/index2.html
ナディッフなどでも売っています。
クレマスターサイクルという豪華本もありますが、まずはDVDがオススメ。
投稿情報: shirasaka | 2005/08/10 11:26:18