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塩田千春展

「美しい泥水」


art164_01_1「不確かな日常」


■横浜トリエンナーレにおける、泥まみれのドレスを洗い続けるインスタレーションで、話題をさらった塩田千春。ベッドが置かれた空間を、黒い毛糸で張り巡らす壮大なインスタレーションなども展開している。ドイツ在住の彼女が、帰国して滞在制作していった新作インスタレーション展が行われている。

■タイルばりの泥水のプールのなかに、古びたむきだしのベッドがたたずみ、シャワーから水が流れている。ベッドは、名古屋にある精神病院が廃業したとき、ギャラリーオーナーが彼女の作品に使えるだろうと、入手しておいたもの。オーナーのパートナーシップがうかがえる。コイルのスプリングは、ゴミ処理場で手に入れた。シャワーも手作り。

■ギャラリーが一変してしまったので、通りすがりに気を取られる人が多い。「気を取られる」とはよく言ったもので、最初に見たとき、目が幽体離脱してすーっと中に移動するようだった。

■「場」から作品を立ちあげていく彼女は、空間のなかで、身体感覚を交えてつくっていく。以前、泥のパフォーマンスをしたとき、その後も長い間、泥が皮膚の中に染みてしまって落ちなかったのだそうだ。そのような身体が記憶した感覚が、ものになったときの強さを宿している。

■アイデアは、浴室で浮かぶことが多いらしい。水に漬かることや、日常にあって日常から離れられる境目にあるような感覚がいいのかもしれない。そして、いつも相当に自分を追い込んでつくっていることが感じられる。「嘘をつくと、見る人にはわかってしまうから」と話す彼女。「こんな馬鹿なことに、見る人が惹き込まれている姿を見ると、報われる思いがする」という。

■コイル状の汚れたスプリングベッドや泥水の水面は、確かに内面の鏡のように、見る側にも突き付けられるものがある。しかしその一方で、浄化されると感じてしまうのは、彼女の苦行の後の昇華した感覚が、見る者をも許容してしまうからではないだろうか。彼女が苦しいハードルを乗り越えるほど、人々が安らかな気持ちになるとしたら…という不条理を思いながら、見続けていた。

塩田千春展「不確かな日常」
2002年9月6日(金)〜10月12日(土)
ケンジタキギャラリー
東京都新宿区西新宿3-18-2-102
(京王新線初台駅より徒歩5分)
12:00-19:00 日月休
TEL.03-3378-6051

words:白坂ゆり

art164_01_2流れ続ける水の音


art164_01_3タイル張りの通路


art164_01_4「浴室の中で」


art164_01_5設置のときに残った足跡


2002-09-06 at 09:09 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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