萩野美穂展
「覗き込みて物想う」
会場風景
■8つの作品から構成された萩野の個展のサブタイトルは「裏窓」。彼女は、物事を皆が見るのと同じようにステレオタイプの見方をするのではなく、フレームからはずれたところから覗き込むような、モノの見方をする。身辺で発生したことや疑問に感じていることを題材にした出品作も、やはりそんなとらえ方で作られている。
■萩野は彼女自身の左足の手術の現場をビデオ撮影。その手術の様子と、体内から取り出された骨の一部を砕いて小麦粉に混ぜてクッキーを焼いて自分で食べる様子を編集して映像作品「Flower Flour」にしたという。
■本当に骨を入れていようがいまいが、そのこと自体はさして重要なことではないようにも思われる。人型にくり抜いて焼いたクッキーの可愛さと、身体の一部分だった箇所を自ら食らうことを考え付いてしまうやや猟奇的な部分。自分の部分を愛おしく想う気持ちなど、多様な思い錯綜する。
■すべての荷物を残したまま日本で失踪した3人の外国人の荷物。彼らの似顔絵を荷物とともに展示。3人についての情報を待っていて、この行為は荷物を返すことが目的だというコメントがついている。
■人々は荷物と似顔絵を見て、3人について様々な物語りを考えつくだろう。殺人、お金にからむ事件などが危険な匂いがする。現にそういう外国人は沢山いるはずだ。実際にこれらの荷物を受取りに来る人が実在するかどうかは問題ではなく、目の前の遺留品と萩野が書いたノートとの間で何を想像するか、信じるのかが、ここでも問題になる。「Flower Flour」を上映しているモニターの横にクッキーを置いて「他者の存在に意識的になる」と書かれていた。この展覧会を通して言いたかったことでもあろう。
■メキシコの病院で発行されたとされる額縁入りの出生証明書。それと並んで戸籍抄本など4つの証明書類を思われるものが同じく額縁に入って展示されている。人の生命が紙切れ1枚で表わされる。吹けば飛んでしまうようなものが存在の証となってしまう法に対する皮肉でもあり、挑戦状ともとれる。
■萩野は彼女自身が遭遇した出来事にある意味ストレートに反応して作品を作っているのだろう。他の人にとっては「裏窓」かもしれないが、彼女は何でも真正面から取組んでいるようにも思える。本質から目を背け、タテマエを好む日本の大人は、真正面からやってくる彼女のような人を煙たがるかもしれない。5年のメキシコ滞在を経て帰国して2年足らず、彼女はまた日本を後にしようとしている。
萩野美穂 個展【裏窓-rear window-】
2002年9月2日(月)~7日(土)
大阪府立現代美術センター展示室B
(大阪市中央区大手前3-1-43大阪府新別館北館B1 地下鉄谷町線・中央線「谷町4丁目」駅下車、1-A出口)
10:00~18:00(最終日~16:00)
入場無料
Tel.06-4790-8520
words:原久子
「 Flower Flour」 (2002)ビデオ作品5min.30
「Flower Flour」の中でつくっている人型クッキー
「Distorted His Story ねじ曲げられたヒズストーリー」(2002)有名百貨店で購入したブランド男性用化粧品はタグを1枚はがすと無料配布の試供品だった。
「I always wait for you」(2002~)
新聞の尋ね人の欄を模したカード。自分とはかかりがなくても、目に留めると尋ね人のプロフィールや現在について憶測してしまう。
「Renaissance」(2001~)
「No one knows what they wanted, Even 誰もどうしたかったのかわからない、彼らさえも」(2002~)
2002-09-02 at 04:18 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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