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出光真子展

「母性本能の正体」


e155_01_1「Grandmother,Mother,Daughter」(2002バージョン)


「癒し系」といわれたら、女性の多くは悪い気はしないのではないか。自らそこに存在意義を見出す女性もいる。「冗談じゃない」という人でさえ「案外癒し系」などといわれたら弱いかも。本来もつ人間的優しさや包容力が、単に弱い社会の受け皿として(自覚的にせよ無自覚にせよ)利用されてしまうケースもあるのでは?

そこには「女性には母性が本能として備わっている」という誤認がある。出光真子の新作映像「REAL? MOTHERHOOD」は、母性は「最初から備わって生まれてきたのではなく、社会が与えたものだ」と示唆している。彼女自身が子育てを通 じ、愛情と、子供のために生きなければならないような疎ましさの二律背反を感じて自分を責めたりするなかで、出会った言葉(「母性という神話」エリザベート・バダンデール著)なのだそうだ。出産まもない幸福なカラーのシーン、自己の内面 を見つめる(見つめ返される)ようなモノクロのシーンの反復。映像の前には、透明のベビーベッドが置かれている。

■'40年生まれの出光真子は、'60年に渡米し、画家サム・フランシスと結婚。60年代半ばから、主婦という、女性の中でもいちばん無視されている存在を軸に、日本の家族制度や女性の生き方を描く映像作品を手掛けてきたパイオニアだ。技術があってさて何を表現しよう、ではなく「ある日、子供ふたり抱えてやむにやまれず8ミリを買ったのがはじまり」。夫は承認しても家事に協力してくれるわけではない。週末は家族に専念し、子供が学校にいる間に制作。「明日から制作がはじまるという日曜の夜には吐き気がした」という。自分の暗さと向き合ってようやく解放される行為を重ねて来たのだろう。アート界の評価者には男性が多く、また未婚の女性作家も多いため、当時の孤独感も察せられる(私は未婚だが)。女性の観客のなかでも目覚めることを恐れる人もいるだろう。

■もうひとつは、祖母、母、娘それぞれがタバコの箱を使って自由に戯れる姿を撮った作品。他の人のモニターを見ながら、娘は違うことをしようとし、祖母は奔放だったそれに自己抑制が働いていく。その差異と同時に、三世代親子のあずかりしらぬ 同一性を見出そうとするものでもある。

■表現はわかりやすくストレート。しかし、制度からはずれて眺めてみなければ、容易にはわかりあえない抽象的な感情。先日も年輩男性に「子孫の反映をさまたげる」などと怒鳴られたそうだ。それだけ真実を突いたということか。「相手の身になる」という言葉があるが、映像というメディアは直接かつ後々も「身になる(響く)」鏡なのかもしれない。

出光真子展
2002年4月29日(月)〜5月12日(日)
トキ・アートスペース
渋谷区神宮前3-42-5 
(地下鉄外苑前駅5分)
11:30-19:00 水休
TEL.03-3479-0332

*6月2・9・16日イメージフォーラム3Fシネマテークにて映画上映あり。( お問合せTEL.03-5766-0116)

words : 白坂ゆり

e155_01_2社会の動きと三世代の年表

e155_01_3「REAL? MOTHRHOOD」(2000)より

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e155_01_5十字架のついた墓のようなベビーベッドが(まさに表面一枚の)スクリーンに映り込む。

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2002-04-29 at 12:32 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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