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谷口顕一郎展

「凹みのポジ」 


art147_01_1今回の展示風景


■床や壁の染みや傷が、絵画のように見えてくることがある。札幌在住の谷口顕一郎は、建物の床や壁のヒビ(凹み)の形をトレースし、黄色いプラスチックを切り抜いて薄い平面状のピースをつくっている。4月の東京初個展では、札幌の工場跡で採取したピースに蝶つがいをつけて回転させたり、独立したユニークな形を見せていた。そのとき、ドイツでも採取する予定だと聞き、形が建物の固有の重みから解放され、距離を超えて交流するような自由さを感じた。

■今回は「日本凹み学会」と称し、「世界凹み図鑑」をつくるために、さまざまな国に住む人に凹みのトレースを依頼し、それを谷口が形にするというプロジェクト「ヘコミュニケーション」を行っていた。壁にはその凹みの写真とエピソードが展示され、地球に見立てた柱の四面には、凹み作品がだいたいの国の位置に展示されていた。

■たとえば、ロンドンの凹みは「家の天井にあるもので、光の加減で現れたり見えなかったりする。夜明けの光が射し込むと洞窟の中を探検するような気分」と想像力豊か。NY の凹みは、テロの数日前に、ワールドトレードセンターが臨める建物の壁から採ったもの。ほかに歴史的な建物など、時空を超えた形が並ぶ。

■今回は、他者に委ねたことで採取の理由が多様になり、固有性を取り払った形そのものの追求ではなく、フラットな平面の奥にある背景の厚み、見えないプロセスを見せる方向性に変わっていたと思う。

■また、私自身は、この些細な形に、距離を飛び越えて新しい自分たちの地図をつくるような意識の可能性を重ねている。けれど、今回のプロジェクトは、知人や知人を介した依頼であったためか地域に若干偏りがあり(アジアは少しあったが)、逸脱した感じは薄いかもしれない。

■形の位置は移動可能だが、制作の目論見が、新しい価値転換を起こすような地図にあるのかどうなのか。厚みを見せたいならプロセスが性急だし、予測不能なところまで越境しないと弱い気もする。あるいは、プロセスを厚くして表面は薄さに向かうのか。単に今回はワークショップであり、今後の集積で見えてくるだろうか。いずれにせよ、身近なことから世界に向かうとき、自己を見つめる過程は避けては通れない。凹みをネガからポジに変えたその先だ

■会場では、国の形をトレースして持ち帰ることもできる。また、周囲の凹みを見渡せば、その歴史や自然が生み出す形から、自身の地図を心にもつことはできるだろう。

谷口顕一郎展
2002年1月1日(火)〜12日(土)
ギャラリー ル・デコ
東京都渋谷区渋谷3-16-3TOWAビル3F
(渋谷駅東口より徒歩5分)
11:00〜19:00(最終日〜17:00)無休
TEL.03-5485-5188

words:白坂ゆり

art147_01_2右端が日本の札幌と東京。赤い点は飛行機の航路で、長方形は、航空機のなかのテレビ画面。

art147_01_3ベルリンの凹み。「HOTEL DE ROMA」として使われていた建物のもの。「皇帝ウィルヘルムがそのホテルのバスタブを気に入って城に持ち帰り、入浴が終わると召使いに戻させた」といういわく付きの建物。

art147_01_4NY。青い鳥のような形に、平和を祈る。

art147_01_5作家がドイツの展覧会の際に採取した凹み

art147_01_6会場で凹みを見つけてみました

2002-01-01 at 02:14 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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» 谷口顕一郎さん、ドイツで10回目個展 from 北海道美術ブログ
 世界各地の建物の壁や床にある小さな傷やくぼみのかたちを採取して、そのかたちをプラスチック板や金属板の作品にしている札幌の「けんちゃん」こと谷口顕一郎さんが、Hecomi Study #10と題して、ハンブルクのCAIインターナショナルで、10月26日~12月4日、展覧会を開きます。  不思議なかたちを、よーく見ていると、それぞれの都市の物語をかたりだすようにも見えるから、おもしろいものです。  北海道美術ネットに載った、谷口顕一郎論文発表会も参照してください。  上とおなじ時期(... [続きを読む]

トラックバック送信日 2005/10/31 16:47:34

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