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ウォルフガング・ティルマンス展

「僕らを支える、瞬間の集積」

art66_01Socks on Radiator" 1998


■僕は最近、「日常生活」というヤツが、どんなに平凡でありきたりのことであっても、それだからこそ価値があると思うようになっている。と同時に、その価値をすぐに忘れてしまえることが、すばらしさの最大の要素になっているんだと、思う、きっと。本当にささいだけど、忘れてしまわなければ進めない、そんな僕たちの弱さが。

■ウォルフガング・ティルマンスという、ドイツ生まれの写真家の作品に僕が惹かれてしまう理由は、簡単だ。僕らが毎日の生活のなかで目にしているはずの「なんてことないもの」は、一瞬たりとて同じであることはない。その瞬間を逃してしまえば、二度と見ることができないもの、出会えない瞬間の連続、僕らが生きていることの証拠でもあるそれを、とてもとても、彼は大切にしているのだから。

■ティルマンスにとって、「日常」という思いはきっとないんだろう。それは決して「ありふれたもの」じゃなくて、本当に限られた一瞬にだけ見える、愛すべきものたちの姿であり、美しさなのだろう。そして、彼自身が感じ取る愛情であり、美であるからこそ、カメラのシャッターで切り取ることができるんだ。

■僕らが彼の写真を見て感じとるのが、姿かたちではないことは、分かっている。彼自身が東京のこのギャラリーを訪れ、写真を選び、一枚一枚を壁に貼り付けていく行為が、その空間全体に満ちている。「毎日毎日の、ささいなことにも簡単に埋もれてしまいそうな僕たちの弱さが、きっと僕たちを支えてくれているんだ」。

「ウォルフガング・ティルマンス」展
Part1:Recent Works:1999年5月14日(金)—6月12日(土)
Part2:"Concorde":1999年6月16日(水)—7月3日(土)
ワコウ・ワークス・オブ・アート
東京都新宿区西新宿3-18-2-101
tel.03-3373-2860
11:00〜19:00 日月祝休
※ギャラリーでは、ティルマンスが編集・デザインした写真集が限定1200部で発行されています。定価2500円

words:桑原勳

art66_02彼のなかの、切り取られた場所と時間が見えてくる


art66_03雪ばかりを写した写真の組み合わせ。瞬間の集積


art66_04彼が実際にギャラリーを訪れて写真を選び、貼り付けている。この展示は、まさにここでしか見ることができない


art66_05このように組み合わされた写真は、一組でひとつの作品になっている

1999-05-14 at 08:58 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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