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シナプス画廊の押川東一郎展

「それでも自分でやることの意味」


art64_06シナプス画廊のあるアヤベハイツ。大きなヒトの絵がついた看板が目印。
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■世田谷の用賀駅から歩いて約7分。通りに面した住宅街のアパートの1階が「シナプス画廊」だった。ちょっと古めの木造アパートの扉を開けると、オーナーである押川さんが出迎えてくれた。ごく普通にお宅を訪問するように、靴を脱いで上がり、奥の六畳間に通された。部屋中の壁に、押川さんのドゥローイング作品がペタペタと貼られている。出されたお茶をすすりながら、作品を見たり、お話をしたり、なごみまくること約1時間。通りを往来する車の音が建物を振動させる、この質素な小さなお部屋は、なかなかに居心地がよかった。

■押川さんは、じつはこのシナプス画廊を、以前に明大前のやはり小さな古い木造アパート三和荘で開いていた。そちらは玄関から入るのではなく、庭から上がる形式だったが、畳敷きの小さな部屋である点では、いまと変わりがない。彼は、この通称「世界初のお座敷画廊」を開くためにアパートを借り、その運営を自分でいちから行なってきた。ごく安いレンタル料でアーティストの個展会場として貸したり、音楽イヴェントを行なったり、場所の珍しさも手伝って、変わりモノ好きの小さなコミュニティのようなものができるにいたり、近隣の中学校で行なわれた美術展に参加して、押川さんが敬愛する岡本太郎の作品展を自力で開くというビッグ・イヴェントも成し遂げた。つまり、そこで店番をすることも含めて、シナプス画廊はそのまま押川さんの作品だったわけである。

■そして現在、1年半前に用賀に移転してからは、以前のようなヒトがたえず集う仕掛けや大きな企画はいったん休止され、このたびの5周年を記念して、画廊初の押川さん自身の個展が開催されている。美術をめぐるシステムそのものに自分でかかわり、世界の動きを直に感じとる作業であった画廊運営は、作品だけをつくる行為とはまた違う視点を必要としたからか、三和荘時代もずっと書きつづけていた自分の絵を発表することは結局せず、世間の接客マニュアルを応用して、複数のスタッフで画廊を運営するのに専念していた。けれど、いい点も悪い点も含めて、システムのあり方をひととおり実体験できたいま、押川さんは今度はひとりに戻って、新しい場所で自分の作品を無理なく発表している。そんな等身大の、生き方がそのまま制作につながっているような彼の話を聞くうちに、こちらのほうまでなんだか元気になってきた。

「シナプス画廊創立5周年記念 押川東一郎─主に墨マ画5年」展
1999年5月1日(土)─5月30日(日)
シナプス画廊 
東京都世田谷区上用賀1-7-12アヤベハイツ101号室
(東京新玉川線用賀駅北口より徒歩約7分)
tel.03-3707-1192
18:00−22:00 入場料:カンパ500円(お茶付)
月休 企画展のないときは常設で、基本的に土曜のみ開廊。別の日に予約して来廊可。

words:桑原勳

art64_07シナプス画廊オーナーであり、今回の展覧会アーティスト、押川東一郎さん。右奥が展示場。


art64_08畳敷きの部屋に古い書き物机がひとつ。そして壁中に押川さんの作品が貼られている。


art64_09今回の展覧会タイトルにある「墨マ画」とは、墨で描いてマジックで着色した墨マジック絵画の略称。どれひとつとして同じ絵柄がないが、全体として見ると、黒のタッチと鮮やかな色彩がとてもきれい。


art64_10作品のひとつ。夢に繰り返し見るヘンテコなヒトたちとのやりとりを絵にしているというが、ストーリーがあるようでないような不思議な魅力がある。


1999-05-01 at 09:50 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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