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須田悦弘展

「都市に咲く花」


art54_06スイッチの扉にくっついた「椿」(1999)。木製の花びらに切れ目が入っている。


■会場に入ると、ガランとしてなにもない。唯一、奥の壁に白い板が立てかけてあるので近寄ってみると、板の脇に赤い椿の花が引っかかっていた。床には、やはり椿の花がポトリと一輪落ちている。板のほうの花は、花びらが壁に食い込むようにしてくっついているのがなんとも奇妙だが、じつはこの花、細密な木彫りによる立体作品なのだ。しっとりと落ちついた色合いといい、雌しべの花粉や独特のフォルムといい、本物とみまがう美しさだ。

■実際、これらをそのまま本物の花と置き換えてみたとしても、なんら不自然ではないほど、花と空間とからなるこの贅沢な展示は、絶妙のバランスと緊張感をたもっている。しかし、先述の板にくっついた花が物語るとおり、つくられた花であるからこそできる不思議なトリックが、須田さんの作品展示の特徴のひとつである。この花たちは、重力に逆らって存在する、異次元の花なのである。

■会場内の柱のわきに、コンセントがあるが、このすぐ隣に、同じサイズの白い板が壁から少し浮かすようにしてついている。そして、その板にも椿が一輪寄り添っている。板は、壁から生えている椿の花びらによってようやく支えられているのだ。最初に見た、大きな板にくっついて存在するちっぽけな椿のことを考えると、上から見おろすこの椿が、逆に巨大で力強いものに見えてきて、おかしくなる。

■こんなふうにして、小さな花たちは、大きな展示空間を手玉にとるようにして、ユーモラスにあちこちに出没していた。最後に、帰り際ふとドア脇の壁を見ると、小さなスイッチの扉にまた、最後の一輪がくいついていて意表をついた。まるで花が意志をもっているかのようだ。空間の端や隙間といった場所に、やはり都市において隙間においやられた草花の木彫りを設置する須田さんは、日本的といっていい独特の間合いの美学を踏襲しながらも、展示を見て安易に自然を愛でた気になる観客をさらにはぐらかそうとしているようにも見える。なにしろこれは、木彫りの花なのだ。しかし一方でまた、自分の手でつくる感覚がどんどん希薄になっているいまだからこそ、こうした「つくりもの」がよりリアルに心に響いてくるのもたしかなのである。

「須田悦弘─間─」展
1999年2月19日(金)─3月20日(土)
ギャラリー小柳
東京都中央区銀座1-7-5
10:00~19:00 日休
tel.03-3561-1896

words:宮村周子

art54_07コンセントと呼応するようにある、白い板ともうひとつの「椿」


art54_08画廊奥の扉とやはり呼応するように白い板が立てかけられ、右端上方と、床に「椿」が発見される。


art54_09椿は花びらが輪のようにくっついているので、首からポロリと落ちるのだそうだ。多種多様な草花を彫刻してきた須田さん(1969年生まれ)は、植物の生態にやたらと詳しい。いわく「草花には意志がある」のだとか。須田さんはスタジオ食堂 のメンバーだ。


art54_10昨年のシドニー・ビエンナーレ出品のためにつくられた「百合」


1999-02-19 at 11:15 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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この前金沢21世紀美術館にMatthew Barney展を観に行った時に、入り口... [続きを読む]

トラックバック送信日 2005/09/19 20:41:26

コメント

森美術館の須田さんの作品に感動して、ググったらここに来ました。コンテンポラリーであって古代美術でもある、普遍性にひかれます。TBさせていただきました。

投稿情報: HOORN | 2005/05/08 0:16:47

宣伝になりますけど、発売中の『ARTiT』のPICKSというコーナーで、展覧会の紹介とともに、須田さんをフィーチャーして、取材の上で書きましたので、よかったらご覧ください。
私は、自分の名前の「ゆり」と、アパートの名前の木蓮(英語名ですが)の花のとき、気になります(笑)。「秘すれば花」では木蓮でしたね。

投稿情報: shirasaka | 2005/05/15 0:38:33

トラックバックさせていただいたものなんですが、ウチのMovableTypeがトラックバックエラーを出してしまいもの凄い数のpingを送ってしまったみたいです。申し訳ありません。
余計なものは削除してください。ご迷惑をおかけして本当にスミマセン。。。

投稿情報: tsukada | 2005/09/19 22:08:26

いえいえ。TBありがとうございます。
ちなみに、菊っつあんというのは、ここにサポートいただいているブルーマークの菊地さんかなあ? 板さんというのは、アリ・ラシッド展をされた坂東さんかなあ?

投稿情報: shirasaka | 2005/09/20 9:39:06

いや、菊っつぁんも板さんも全くの別人です。ごくごく狭い身内の話です。
ていうか白坂さん。僕ら前にお会いしてますね。東京アートフェアの時に。宮下くんが紹介してくれました。ってこんなところでナニですが(笑)あーART遊覧か。今気付いた(笑)

投稿情報: tsukada | 2005/09/20 12:34:35

あーーーーーーーーー!
tsukadaさんって。そうか。ブログ見に行ったんですけど、気づかなかった。
なにか、つかださんって人は知ってるかもしれないぞ、とはうっすら警戒しつつ(笑)思っていたのですが。あ、そういえば宮下さんも須田さんの話してましたよ(笑)
その節はありがとうございました!

投稿情報: shirasaka | 2005/09/21 15:14:16