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ヤノベケンジ展「ルナ・プロジェクト」

「未来の廃虚で出合ったもの」


art49_y01チェルノブイリで遭遇したさまざまな出来事が大型の写真として展示された「アトムスーツ・プロジェクト」


■ヤノベケンジの大阪での4年ぶりの個展は、98年春の東京での「ルナ・プロジェクトー地上最後の遊園地ー」のヴァージョン・アップした展覧会というより、もうまったく異なるスケールを持ったものになっていた。

■まず「アトムスーツ・プロジェクト」を展示したスペースの横にあったスケッチに目が釘づけになった。ヤノベ氏は黄色いアトムスーツを着て、実際にチェルノブイリの町を歩いたときのことを、メモ付きのスケッチに残している。そこには高濃度の放射能汚染地域であったとしても、故郷を捨て切れない人たちとの出合いが記されていた。ライトボックス型の写真作品では、廃虚となった保育園や遊園地などにたたずむアトムスーツ姿の人がいる。「明るい未来」というテーマのもとに催されたこの国の戦後最大のお祭り「大阪万博」の会場がどんどん取り壊されていくなか、そこを格好の遊び場として幼い頃を過ごしたヤノベ少年は、未来の痕跡をそこで体験していた。その万博を象徴する‘太陽の塔’のまえにもアトムスーツが登場している。

■放射能はわたしたちの周囲のいたるところに微量ながら降り注いでいる。アトムカー「G.1.(ガイガーミュラー・1)グランプリ・サバイバルレース」は、ゴーカートふうのクルマに付いているガイガーカウンター(放射能測定装置)が会場内の放射線をチェックするとポイントが減少し、ついには止まってしまう。アトムカーが走り出すと楽しげな曲が聞こえてくる。いつのまにか耳についてしまい、気がつくと鼻歌を歌っていた。アトムカーの大人がひとりやっと収まるサイズは、個人的な体験として、そのなかにいるときだけは心身が解放されるような気になる。異界との温度差を感じないために、現実世界からしばらくのあいだタイムトリップが可能となる。しかし、このクルマは放射線から守ってくれる殻ではないようだ。自分の行く先を自由に選べるが、クルマを継続して走らせようとすると、運にまかせるだけではなく、リスクも負わねばならない。なるほど「サバイバルレース」というわけだ。乗っていると見えないが、放射線を関知した瞬間、ツノのようなアンテナ部分がキラリと光る。まるでカウンターに嘲笑されているみたいでドキリとする。

■今回の個展を印象づける大きな要素のひとつとして「巨大シェルター・ブンカー・ブンカー」という作品がある。半分地中に埋もれたように展示されたこのシェルター内部は明るく、清潔だ。食塩、酸素ボンベ、子どもの頃の記録をとどめたテープやレコーダー、テレビ、ディズニー映画のフィルムなどさまざまなものが搭載されている。ケースに入ったそれらを見ていると、わたしの‘お気に入り’とダブって、つい笑みが浮かんでくる。わたしたちは皆いつまでも消さずにおきたい思い出を持っている。梯子を上がると地上の様子を眺めることができる。

■会場内につくられた地上の風景は映像でできている。なにもない砂漠をただひたすらに歩くアトムスーツの人。なにか向かって行こうとする人影。大海原におちる夕日をじっとみつめる後ろ姿。そんな映像のなかに、モノクロで英語のナレーション入のものがあった。例のアトムカーに流れていた曲ではじまる。これは米国が、原爆が投下されたときにどう対処するかを示した教育フィルムだと後で聞いた(今の知識でいえば笑ってしまうような内容)。これらの映像をバックにアトムカーがシェルターのまわりを走っている。

■200円いれてレバーを回すとサバイバルグッズが出てくる「サバイバル・ガチャポン・プロジェクト」。ついつい、心をくすぐられてしまい散財をするはめに。米、ビタミン剤(?)、塩、紅茶&角砂糖etc.…。

■ヤノベ氏はオウム事件をみていて、彼らのやってきたことと、さまざまなことが重なって見えてきたという。そして、日常生活も多くの命までも奪ってしまった阪神淡路大震災。ちょうど、彼は日本を離れていた時期ではあるが、これらの事件によってあるきっかけを与えられたという。それはひとつの変化という言い方もできそうだ。彼が「妄想」とこれまで呼んでいたものが「現実」となったのである。トークショーの終りに女子学生が「テレビのドキュメンタリーを見ていてもリアリティがなかったチェルノブイリの事故をここではじめて自分の問題として感じることができた」という感想を述べていた。では何故、わたしたちは作品のなかにリアリティを感じたのか。マスメディアが報道で用いるメソッドは、アートとは異なる。彼女を感動させたのはアートだったからだろう。

ヤノベケンジ「ルナ・プロジェクト」
 ーアンダー・ザ・ホライゾンー
1998年12月11日~1999年1月17日
キリンプラザ大阪
問い合わせ:(06)6212-6578

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「巨大シェルター・ブンカー・ブンカー」のむこうには映像が映し出されている

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シェルターには2台のマウンテンバイクとその傍らにアトムカーが控えていた

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シェルター内には必要物資が整えられている

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「サバイバル・ガチャポン・プロジェクト」

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ドローイングにみいる観客

1998-12-11 at 07:06 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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