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廣瀬智央 展ーBIRTH 2000/1998ー考える

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会場風景(中央=「レモンとレモンの間」1994)


■イタリア在住のアーティスト廣瀬智央さんの個展が夢創館(神戸)の「BIRTH 2000」という展覧会シリーズのなかでおこなわれている。会場に入るとほのかにレモンの香りが漂う。

■日本でみる世界地図の真ん中には日本がある。それが、いったん海外に出ていくと、ヨーロッパが中央にあったり、アメリカ大陸が中央にある見慣れない世界地図に出合う。立つ場所が違うと同じものも見え方が変わる。廣瀬さんもそんな経験をしたという。一枚の地図を球状にまるめていってつくったのが「World Map」というシリーズだ。国境が描かれた世界地図。砂漠地帯や森林地帯の描かれた世界地図。縮尺率が変わると一枚の大きさも変ってくる。すると、まるめた球の大きさも異なってくる。

■外国紙幣でつくった家「私は家を建てた」シリーズもそうだ。ほほ同じ大きさに作られた家のかたちのオブジェだが、同じようにならんでいても、相対するそれぞれの国によって換算レートも変化する。物と物との関係を考える。

■部屋の角の窓際の床に積み上がっていたレモンの前に立っていると「どうぞ、ひとつ持っていってください」という廣瀬さんの声に促され、レモンを手にとった。視覚だけでなく、触角や嗅覚などの五感に直接ふれてくるものを作品の要素として取り込んでいる。鮮やかな黄色のレモンは、各々に色も違えば、形も違う。均質なものに慣らされているが、私たちをとりまくものはけっしてそうとは限らない。意識の中から消えかけていたなんでもないことを、もう一度意識のなかに蘇らせる。レモンはひとつずつ無くなっていき、最後にはそこにレモンがあったということすらわからなくなる。だが、確かにレモンはそこに在った。

■生のレモンが連なった柱と、金属製の「LEMON」の文字と大理石が、ワイヤーで両端につり下げされ平衡をとって存在する。かたちや色や香りをもったレモンと「LEMON」という文字のあいだにあるものを、わたしたちは考える。レモンはひとつの例に過ぎないことをわたしたちは知っている。

■廣瀬さんは、社会全体が中心を欠いた状況のなかで、一方向からだけの見方ではおさまりきらない多くのことがあると実感している。作品を通して、それぞれの関係みつめ、網目のような社会構造のあいだ(隙間)を埋めようという表現によって、問題を顕在化し、考えるきっかけを提示してくれていた。

BIRTH 2000/1998ー考えるー
廣瀬智央 (ひろせ さとし)展
1998年12月13日~27日
夢創館(神戸)
問い合わせ:[email protected]、tel.078-802-8822


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「レモンとレモンの間」1994 部分

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左=「World Map 02」1992(1997)、右=「World Map 01」1992(1997)

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「私は家を建てた」シリーズから 1995~98

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「私は家を建てた」シリーズから 1995~98

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「Si allena」1993(イタリアに行ったばかりのころ廣瀬さんはイタリア語がまだ不自由で、新聞をみてもよくわからなかった。日本語の新聞を読むのと違い、文字ではなくて掲載されている写真が先に目に入ってきた。写真の情報から新聞をみるようになっていった。写真のまわりに新聞紙をぐるりとまるめて巻いた作品はそんなときにつくられた。)

1998-12-13 at 06:51 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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