« 糸賀英恵展 | メイン | 造音翻土-戦後台湾サウンドカルチャーの探索 »

チャーウェイ・ツァイによる『パルケット』展ローカル・プロジェクト

台北から岩切澪さんのレポートです。

 

Exhibition_view2

前回のレポートからずいぶん時間が経ってしまったが、今月から隔月でレポートを再開する。

ここ5年ほどの台北のアートシーンの変化には、目を見張るものがある。アートスペースの誕生や移転、そして休止、アートピープルの移動や、進行中のプロジェクトなど…香港やシンガポールのような派手さ、華やかさはないかも知れないが、確実に新しい風が吹き込んでいるように思う。プロジェクトや展覧会レビュー、インタビューなどを織り交ぜながら、少しずつ発信してみたい。

 展示風景/All photo courtesy of Charwei Tsai

 台北市立美術館では、この夏「パルケット 1984年以降の220人のアーティスト・エディションとコラボレーション+5」という展覧会が行われた。スイス発のアート雑誌『パルケット』は類似の展覧会をこれまで世界各地で開催してきており、日本では2009年に金沢21世紀現代美術館で行われている。(「美術誌パルケットと現代アーティスト達のコラボレーション25年の歩み パルケット・エディションズ」)今回の台北展では、パルケット誌のこれまでの歩みに、ローカル・プロジェクトを5つ加えた展示となった。日本からチームラボが招待されたほか、地元台湾から、近年意欲的に活動してきた「キューブ・プロジェクト」や「台北コンテンポラリーアートセンター」、『典蔵・今藝術』(ARTCO) 誌、アートマガジン『Lovely Daze』を出版しているチャーウェイ・ツァイが招かれた。この中で、ツァイが行った「18人の台湾人アーティストたちに影響を与えた本」というプロジェクトが、台湾のアートシーンを知る者にとってはすこぶる楽しいものだったので紹介したい。

 ツァイが選んだ18人のリストは、彼女と個人的に親しい台湾人アーティストを中心に、国際展の常連から、注目の若手までを網羅したものである。ちなみにツァイ自身、2006年前後から多くの国際展で活躍中のアーティスト。Lovely Daze は2005年からツァイが編集・発行しているアート雑誌で、当時の美術雑誌を過度に客観的だと感じていた彼女が、異なるアプローチで雑誌を作ろうと考え、アーティストの作品やテキストを、視覚的なダイアリー形式で編集したものだ。印刷・装丁ともに、シンプルで美しいデザインが魅力的である。

「あなたに影響を与えた本について教えてください」と言われた時、アーティストはいったいどんな本を選ぶのだろうか。リストは彼らの作品のバックグラウンドを反映し、アーティストによっては、リストやビデオインタビュー自体が表現活動の一環ともなっているように思える。  


Chenchiehjen_list現在台湾を代表する作家として名声を不動のものにしている映像作家のチェン・ジエレン(陳界仁)(過去にも紹介http://www.art-yuran.jp/2009/03/----709f.html のリストには、マルクスの資本論から、ネグり&ハートの「帝国」、インドの作家アルンダティ・ロイに至るまで、グローバル化した世界における今日的な議題に踏み込んだリストであり、腑に落ちる。昨年の資生堂ギャラリーでの個展が記憶に新しいリー・ミンウェイ(李明維)がインタビュー中で語る「枕草子」の細部についての思いは、彼の作品の持つ細やかな魅力の参照点となっている。金沢21世紀美術館や、十和田市現代美術館に作品が収蔵されているマイケル・リン(林明弘)のリストは、見事にデザインや制作関係の本に集中しているが、小説もよく読むはずの彼が、こういう場で個人的内面をあけっぴろげに見せないところが何とも彼らしい。

Leemingwei 

 上)チェン・ジエレンのリスト 展示風景

左)リー・ミンウェイ インタビュー光景

下)香港生まれ台北在住のリー・キット インタビュー光景



Leekit昨年香港から台湾に移り住んだ今年のベネチア香港代表作家リー・キット(李傑)は、インタビュー中で「この本の黄色くなったところが好き」と、本の持つ物質性を再三強調する。彼の日常生活中のモノに対する視線が如実に表れており、ここから彼の作品への理解が進む。横浜や青森にレジデンス経験のあるユー・ジェンダー(余政達)は、オランダ発のゲイ雑誌BUTTマガジンを紹介する。ユーのインタビュー映像は、既に彼の作品そのものだが、彼がこの雑誌を選んだ理由は、セレブでなく普通の人々が登場するからだという。それはそのまま、普通の人々や日常にある様々なギャップについて語って来た彼の作品に通じる。そして、究極のリストは、ラオ・ジャーエン(饒加恩)の挙げた「聖書」一冊、だ。ラオは、今年大阪の国立国際美術館での「夢か、現か、幻か」に参加し(ジャオ・チアエン名)、台湾の外国人労働者たちが自分の見た夢について語ったビデオを展示している。聖書を選んだ理由について、ラオは、自らがキリスト教徒であること以外に、聖書が叙述しているあらゆる事件が、ヨーロッパ、帝国主義と宗教の関係を明らかにしていると思うから、と語る。確かに、グローバリズムという新たな帝国主義時代を生きる私たちにとって、聖書は今一度読み返す価値のある本だろう。 

全体を通して見ると、アーティストたちの選ぶ本はどれも魅力的で、あれもこれも読んでみたくなった。個人的に収穫だったのは、未邦訳の中国や台湾人作家の面白そうな本を知ることが出来たことである。それぞれのリストは非常に幅がある一方、作品のタイプは全く違うのに、複数の作家に共通して上げられていた本もある。そのひとつが、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」だ。(ユェン・グァンミン、リー・キット、チャーウェイ・ツァイ)彼らも読みながら家系図を裏表紙に書いたのだろうか、なんてことをにまにまと想像しながら、観賞するひとときは、何とも至福だった。

■18人が選んだ本のリスト完全版は、そのうちLovely Daze のウェブサイトhttp://lovelydaze.com にアップされる予定。 

■プロジェクト参加アーティスト(斜体下線付のアーティストはインタビュービデオあり):

陳界仁(チェン・ジエレン)(b.1960)、 張乾琦(ジャン・チェンチー) (b.1961)、 李明維 (リー・ミンウェイ)(b.1964)、 林明弘 (マイケル・リン)(b.1964)、 袁廣鳴 (ユェン・グァンミン)(b.1965)、 姚瑞中(ヤオ・ルイジョン) (b.1969)、 葉偉立 (イェ・ウェイリー)(b.1971)、 王虹凱 (ワン・ホンカイ)(b.1971)、 崔廣宇 (ツェ・グァンユー)(b.1974)、 楊俊(ヤン・ジュン)(b.1975)、 周育正 (ジョウ・ユージェン)(b.1976)、 饒加恩(ラオ・ジャーエン) (b.1976)、 李傑(リー・キット)(b.1978)、 蔡佳葳 (チャーウェイ・ツァイ)(b.1980)、 呉季璁(ウー・ジーツォン) (b.1981)、 蘇育賢 (スー・ユーシェン)(b.1982)、 余政達 (ユー・ジェンダー)(b.1983)、 陳敬元 (チェン・ジンユェン)(b.1984)

インタビュービデオはYouTube上で見ることが出来る。(英語/中国語字幕付き) https://www.youtube.com/watch?v=pYvATYTCEEs&feature=youtu.be

■「パルケット 1984年以降の220人のアーティスト・エディションとコラボレーション+5」展 

(台北市立美術館 2013年5月18日〜8月25日)

 

2013-12-30 at 10:28 午前 in ワールド・レポート | Permalink

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://www.typepad.com/services/trackback/6a0120a853c3af970b019b03be6997970c

Listed below are links to weblogs that reference チャーウェイ・ツァイによる『パルケット』展ローカル・プロジェクト:

コメント