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MoMA PS1「Laurel Nakadate: Only the Lonely」

見られる涙

NYから塩崎浩子さんのレポートです。

1_16_IMG_5582-LR  2009年7月にこの欄で筆者が紹介した、ローレル・ナカダテ(1975年アメリカ・テキサス州生まれ)の個展「Laurel Nakadate: Only the Lonely」がMoMA PS1で始まった。ビデオ、写真、映画の3つのメディアによる彼女の過去10年の作品をまとめて展示、さらに新作も紹介した大規模な展覧会である。

Laurel Nakadate《From the series 365 Days: A Catalogue of Tears, 2011 January 16, 2010》
Courtesy Leslie Tonkonow Artworks + Projects, New York

今回の個展で改めて強く認識したことは、ナカダテと、彼女が好んで起用するアマチュアの出演者(被写体)との間の微妙な関係が、作品に独特のごつごつしたぎこちなさを与えている点である。選ばれる男性はいつも決まってさえない風情の中年ばかり。それに対して、女性はナカダテ自身も含めて強いと同時に無防備でもある若くて美しい存在である。カメラの前で向き合う両者の間に生じる居心地の悪さが、不穏な緊張感や性的な抑圧を見えかくれさせるのだ。

Nakadate_LuckyTiger 初期の作品「Happy Birthday」(2000)は、偶然出会った男性に頼んで彼らの家で一緒にHappy Birthdayを唄いバースデーケーキを食べる作品。親子ほど歳の離れたさえない中年男の小さな部屋でケーキを囲む二人はどこかわざとらしい。「Lucky Tiger」(写真中)は、ピンナップばりの挑発的なポーズをとるナカダテのスナップショットの表面に、ネットで募集した中年男性と一緒に黒いインクで指紋をべたべたと押して完成させる作品だ。

Laurel Nakadate《Lucky Tiger》2009
Type C-print and fingerprinting ink 4 x 6 inches Unique
Copyright Laurel Nakadate Courtesy Leslie Tonkonow Artworks+Projects

「Good Morning Sunshine」では、朝、若い女の子たちの寝室を訪れ、ビデオカメラごしに彼女たちを起こし、恋人のように話しかけながら着ているパジャマを脱ぐようにうながす。女の子は緊張し、演技をし、おずおずと服を脱いでいく。ビデオカメラを持つナカダテの姿は見えないがそこには男性的な視線が感じられる。

Nakadate_JulieTate プロではない人たちを使うとはいえ、そこにはナカダテが周到に用意したストーリーがある。彼らは即興で演技をしているわけではない。画面で起きていることはまぎれもない事実、でもそれはフィクション(脚本)である。他人とつながりたいという思いも、疑似家族、疑似恋人、疑似友達の関係の中で演じられているだけで、孤独は簡単には癒せない。カメラのレンズには人をコントロールする力があることもナカダテはそこで提示してみせる。

Laurel Nakadate《Stay The Same Never Change (Julie and Tate)》2008
Copyright Laurel Nakadate Courtesy Leslie Tonkonow Artworks+Projects

孤独や涙、といった感情でさえも、彼女は強靱なルールでもって、自分の体をはって、作品にしていく。新作「365 Days: A Catalogue of Tears」(2010、写真上) は2010年の1年間毎日必ず涙を流し、それを写真で記録した作品。キャプションには「私は毎日、悲しい気持ちになりたかった」とある。叫ぶように、祈るように、乞うように、許すように、泣き続ける姿が大判の写真で展示室を埋め尽くしている。ナカダテは確かに毎日どこかで泣いている。でもそれがどこまで本当の涙なのか悲しみなのか、誰にも分からない。

Words: 塩崎浩子

「Laurel Nakadate: Only the Lonely」は8月8日まで開催。

2011-03-05 at 02:46 午後 in ワールド・レポート | Permalink

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