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柔らかな器—感覚の境目を行き来する6人の作家

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遊覧のライターでもある筆者(水田)がコーディネートした展覧会「柔らかな器」が10月4日まで松の湯二階を舞台に開催している。本展は、参加作家の一人である工藤春香が発起し、6人の30代前後の作家で構成されたグループ展だ。工藤に、創る喜びと観る喜びが直接結びつくような展覧会を作りたいので、協力して欲しいと言われたところから、場所を探し、お金を集め展覧会開催までまとめ役を担当した立場から展覧会について簡単に紹介したい。

■会場「松の湯二階」
会場の松の湯は、一階は今も営業中の銭湯で、15時の営業前には今も近所の人が開店を待っている。そんな温かい風景が間近にある場所で展覧会を開催することができたことが今回の収穫の一つだろう。二階は以前はサウナとして使われた場所で、マッサージ室、休憩室、そして小さな洗い場などがある不思議な場所だ。見に行ってすぐに気に入ったのはベルベット地の赤い壁や、繰り抜きの天井、それからピンクのトイレなど、怪しげでノスタルジックな雰囲気と人が集っていた場所だということが、今回の展覧会の意図に添うと感じたからだ。ギャラリーや貸し会場など整った場所ではなく、人の生活に寄り添うような場所で美術の作品を見れたら面白いし、理想かもしれないが音楽を聞くことや、ご飯を食べることと同じくらい普通に展覧会を見てもらえたら、という思いもある。

場所が決まっていない段階で、既に参加アーティストが大半決まっていたところから始まり、たまたま松の湯に行き着いて、展覧会が少しずつ動き出し展開していった。そのような経緯もあり、展覧会自体が「柔らかな器」という抽象的な言葉と合致するような、常に変化し拡がっていく生き物のようなものでもある。「器」は容れ物だけでなく、人の度量も指すおもしろい言葉で、「柔らかな器」は想像力でいくらでも変えることのできる美術という枠や周囲の環境などの「器」と、それに対応する可変性のある「器」をイメージし、展覧会の枠組みとしている。

■塩谷良太
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入口を入ってすぐに目に飛び込んでくる巨大なクリップ。塩谷の作品は、まずこれが陶器で作られた巨大な、何かを挟むためのクリップだと知るところから始まりなぜクリップで、なぜこの大きさで、なぜそれを作り続けるのか、全く分かりようがないのだが、そこがすごいとしか言いようがない。作家の考えや、意図に寄り添おうとしても、スルッと抜けて行ってしまう。今回は巨大で重量もかなりあるクリップが4点で立っていて、その技術にも脱帽なのだが、陶器の部分の表面の色やマチエールは見れば見るほどおもしろく、ずっと見ていても次の日には新しい発見があるほど見応えがある。まるで悪い夢でも見たような風景で、これに迎えられる展覧会だと同時に夜に見ても朝に見ても気味が悪いし、異空間の出現にただ驚くだろう。作品を解読するキーワードは、「仕組み」「つなぎ(ジョイント)」。


■しんぞう
Img_1409彼女の作品は、余分なものが一つもなく、人を丸裸にする。何か吐いているとしか見えない強烈な人物画が、実はスパゲッティを食べている絵だったり、不安な顔の家々が描かれているのだが、それでもなぜか不快感は残らない。色彩や筆の線が美しく、絵を描くことに特別なモチーフや技術に頼らず、文字通り筆一本で闘っているように感じるからかもしれない。新作の「…に向かって」はパレットを押し付けた異色の作品だ。他の作品にも見られるキャンバスの上で、混ざりきっていない生の絵具がより一層鮮やかに見える。

■平川正
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力強い木彫作品を作っている平川正は、今回は場所に触発され、作家の実体験を下敷きにした物語性のあるインスタレーション作品を発表。呪術の儀式のような円環の上には森の奥と海底が同時に存在するような風景が展開されている。会場は楠の木の匂いが充満する五感に訴える作品になっており、神秘的な雰囲気と、原始的な要素の両方を兼ね備えているところが魅力的だろう。


■塩川彩生
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塩川は、風呂桶や剥がれたタイル、サウナ内の椅子も用いたインスタレーションを展開している。もともと柔らかい色合いの彼女の温かい作品が、風呂場の雰囲気と合った作品となった。彼女は木版によるモノタイプの作品を制作していて、同じモチーフが繰り返し登場するがそれは平面作品だけでなく、風呂場のあちこちで目にするねずみの作品や、版木を展示しているところ、ぶらさがったバレリーナなど色々な要素が空間に自由に配置されている。制作の過程がまるでドローイングのように自由な木版であると同時に、空間にドローイングをしているような彼女の魅力が伝わるのではないだろうか。

■黒野裕一郎
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風呂桶から型をとり、銭湯の壁に山を創った今回の作品。今年7月に行われた遊工房での展示では、はしごを用いたインスタレーションで、自身の記憶をテーマとした作品が鮮明に残っている。それとは打って変わって、今回の彼の作品はまるで生き物のような物体だ。会場で実際に作品を見ると丁寧な部分と、勢いや予測不能でできた部分の面白さに気付くだろう。得体の知れないものへ対する不安と期待が入り交じった記憶、子供の頃の思い出が彼の作品の根底にあり、その曖昧さと妄想的な部分が彼の作品の魅力でもある。

■工藤春香
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本展発起人の工藤春香の作品は、蠢くような恐ろしいエネルギーと永遠に続くような平静さが一つの画面に漂う。心象風景のような作品には、滝、山、湖、沼など自然を想起するモチーフが描かれる一方、よくわからない線や形態が一緒くたになって作品を埋め尽くしている。滝が動的でありながら、静かで心を穏やかにしてくれるように、彼女の作品には両極さがありつつ、平衡を保っている。今回も大作揃いで見応えがある展示になっている。

会期は残すところ10日余。この機会に6人の作家の力作をご堪能ください。

柔らかな器—感覚の境目を行き来する6人の作家
http://yawarakanautsuwa.blogspot.com/

2009年9月14日〜10月4日(会期中無休)
月〜金16:00-21:00 土日祝11:00-19:00
会場 松の湯二階(新宿区山吹町16/江戸川橋駅より徒歩8分)
入場無料

参加アーティスト
工藤春香、黒野裕一郎、塩川彩生、塩谷良太、しんぞう、平川正
words:水田紗弥子

2009-09-24 at 12:40 午前 in 展覧会レポート | Permalink

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