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Vol.04 有馬かおる(Kaoru Arima)

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1995年自らが住むアパートを「キワマリ荘」と改名し1997年からキワマリ荘2階に「アート ドラッグ センター」をオープン。97年に個展「神の生活」、98年に個展「アート・ドラキュラ」を開催。現在、1998年9月5日から1999年1月31日までワタリウム美術館にて開催中の「to the Living Room」展に参加し、美術館近くのアパートに会期中ずっと住み、そこで観客を待つという展示を試みている。古い木造アパート「キワマリ荘」のたったひとりの住人である有馬さんは「アート ドラッグ センター」を通 して自らが考えるアートを少しづつカタチにしようとしている。「自分のいる場所を住みよくしていく」という彼の話を聞くために、会期限定の彼の部屋を訪れた。(「to the Living Room」展の詳細はワタリウム美術館のホームページへどうぞ)

●学生時代、美術とのつながりはどういうかたちでしたか?

■中学のとき、てっとり早く成績をあげられるのが美術だったんです。ピカソを見て、人と違うことをやればいいのかと思って。先生もそういうのを認めてくれて、成績があがったんです。つまり評価されたんですよね。そういうのっておもしろいなと思いましたね。でも工業高校に進むと美術の授業もなくて。美術は自分のなかでは得意じゃないけど、唯一認められるモノというか、支えにもなっていたんですけど、クラブだから成績に関係ないし、成績は下がる一方。ただ、ずっと工業製品とか大量生産されるものに興味があったんです。

●短大ではどんなことをやっていましたか?

■やっぱりプロダクトとか陶芸製品とかに興味があったので、広告とかデザインとかの勉強を含めてやっていました。卒業してから学校の職員になったんですが、どうしようか真剣に考えてましたね。自分が好きなものとか得意なものとか。で、なにをどう思ったのかホントに全然覚えてないんですけど、突然絵描きになろうと思ったんです(笑)。それで絵描きになるなら毎日絵を描かなきゃダメだろうと描き始めた。それが三か月続いたんで絵描きになる決心をしたんです。

●当時の作品はどういうものですか?

■個展のときも「キワマリ荘の住人」という副題を「極まりそうな人」という意味を込めてつけてました。迷っていたし、寂しかったんで、人と人がくっついているとか、人と人が関係している絵が多かった。なんとかして生きて行かねばならないという思いが強かったんです。

●以後、新聞紙にも作品を描いていますが、どのような変化がありましたか?

■基本的にお金がないんで、ただで手にはいるという理由です。クラフト紙もありました。自分のなかでは「鳥獣人物戯画」というのがあったんです。それを「ネオギガ」と称して、楽書き的なものを極めようと。馬鹿と天才は紙一重だと思っているから、自分が下手なら、うまくなるより下手を極めた方がいいんじゃないかと思って。絵画って西洋絵画として教えられてきたけど、もともと日本には文字と絵をいっしょに描く作品があったわけですよね。だから無理して西洋絵画的なものにしなくても、絵と文字をいっしょに描いた方が自分もやりやすいし。教育を通して当たり前だと思っていたモノを、ひとつひとつ削除していくことを考えはじめました。

●作品のモティーフはどこから来るんですか?

■その日の気分次第ですね。だから私自身の精神状態がそのままでる。結局シンプルになって、いらない要素がどんどん削られていった。キャンヴァスも小さく切ったものをピンで壁に貼り付けるだけだし。キャンヴァスがなくなればクラフト紙とか新聞紙とか。「絵描き」が描くような、肩の張った絵は描きたくないと思っていて。猫の通り道があるというか、作品には勝手に行動したり歩いていくような空気感が欲しいんです。ただ、まわりの評価はイマイチで、とくに新聞紙に描いた作品は最悪でした。結局ギャラリーでやるのをやめて、97年から「キワマリ荘」という自分が住んでいるアパートを会場にし始めたんです。それからクラフト紙に色鉛筆で描くようになるんですけど、このあたりから、本当のコンセプトが生まれてきたんです。それまでは画風を確立するという思いが強かった。

●そのきっかけは?

■「弱いものが本当は強い」っていう思いがあったんです。人は自分より不幸な人をみて、あの人より自分のほうが幸せだとか思ってしまう。そういう下の立場の人がいて、はじめて上の人がいる。もしかしたら弱者って逆に考えるとすごく強いんじゃないかと思ったんです。生きていることに意味を見いだせないとか、そういう人たちにすごく興味をもちはじめたり。直接のきっかけは、ベトナム戦争の枯れ葉剤で奇形になった子供の写真を見てから。腕や足がぐにゃぐにゃになってたり、奇形児はすぐ死んじゃうんですけど、なんとかして生かそうとする。「生きるってどういうことだろう?」って考えはじめた。

●キワマリ荘は「アート ドラッグ センター」というスペースとしてやっているんですよね。

■キワマリ荘は私しか住んでいないアパートで、大家さんに「キワマリ荘という名前にしたい」と言ったんです。空いている部屋を使わせてもらって、そこで展覧会をはじめた。一週間だけ貸し画廊でやって、たとえおもしろくても会期が短いと来れない人もいるし、現代美術ってすごく狭い世界になっているから、来る人も同じだし。ギャラリーでお金を使って展覧会やるんなら、同じお金で他になにかできるんじゃないかって思ったんです。おもしろかったら人は必ず来るっていう思いもあります。

●作品をちゃんと見てほしいという思いが強かったんですか?

■だから、どうしたらいいんだろうとすごく考えて、「いまから作品を見るんだ」っていう準備を観客にしてもらうというか、導入部をつくってあげようと思ったんです。興味のある人とない人の差があって当たり前だと思うし、人それぞれが違う見方ができる展覧会をしたいんです。キワマリ荘の最初の個展(97年)では、会場の外にペンライトを置いて、観客は暗い部屋のなかにライトをもって入っていく。そういう演出じゃないけど、見てもらうための工夫は必要だと思う。

●見る人の反応は違いましたか?

■その時の個展では体に障害のある人を描いているから、売名行為だとか、こういう絵なら注目されるに決まっているとか言われることが多くて。言いたいことはそうじゃなくて、障害があるから生きていて辛いだろうとか、かわいそうとかじゃなくて、「それでも生きてゆかねばならない」ってことなんですけど。描かれているのが全部女性で裸なのも「子供を生む生産性」という思いもあった。片腕をなくした母親をもつ女性が、「すごくよかった」って言ってくれたんですけど、そういう人がいたからやってよかったと思いました。ものの見方は人によって全然違うから、おもしろくないという人がいても当たり前だと思うし、これがいい作品なんだって押し売りする必要もないと思う。だから展覧会に際して説明文をつけるとかもしないし、自分から特に話しかけるということもないです。今回(ワタリウム美術館での展示)でも、部屋に入ってきた人に作品を見せるけど、後はその人にまかせています。

●人に見てほしいっていうのは何故なんでしょう。
■とくにどういう人に見てほしいというよりは、同じ人ばっかりに見てもらってもしょうがないですよね。作品はやっぱり人の助けになることが絶対にあると思うし、アートがお金にならないとか、無意味とかいらないものとか、そういう考え方はすごく嫌いなんです。逆に、こう思われる社会がイヤだと思って、環境を少しでも変えたいと思ったんです。少しでも多くの、広い範囲の人に見てほしいし。

●これからなにが必要になってくると思いますか?

■いま学校ではなにがアートなのか、どういうものがアートなのかってことをちゃんと教えてないんです。デザインのことは教えているから、アートとデザインがごっちゃになっている。アートはなにか、ってことは作品を通して伝えなきゃいけないんだけど、みんながそう思っているワケじゃないし、ちゃんと伝わるような環境もない。アーティストに対する偏見もやっぱりある。新しいアーティストなりアート像をつくっていかなければならない時だと思うんです。自分にあった場所を探して住むか、自分の住んでいるところを住みやすくするかの二通りがあると思うんですけど、私の場合は、自分の住んでいる環境をよくしていくという考えなんですよね。

●アーティストってどういう人を指すんだろう? 作品つくるだけじゃだめなのか、作品つくる人以外はアーティストって呼べないのか。どこへ行っても美術館はあるけれど、僕らの生活のなかにアートってどれくらい浸透しているんだろう? 有馬さんは同時代に生きるアーティストとしてやるべきこと、やりたいこと、を少しづつではあるけれど自分の考えをもって進めている人だ。未完成なぶん、大きな可能性を感じさせる有馬さんに会いたいという人は、ぜひワタリウム美術館へ足を運んでください。彼はいつでも自分の部屋に住んでます。

words:桑原 勲


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有馬かおる(Kaoru Arima)

1969年 生まれ。
1990年 名古屋造形短期大学プロダクトデザインコース卒業。

1998-09-14 at 10:25 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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